FEATURE
16
OHNUKI
大貫晋一
ISSUE TWO FEATURE

GROWING PEA SPROUTS
「その先にあるもの」

大貫晋一。プロ入り3年目でも先発投手陣では最年長となる27歳。
ツーシームにスプリットなどの変化球を巧みに操り低めに集める繊細な投球で
昨年はチーム唯一となる10勝をあげ、今季は投手陣の柱として期待が掛かる。
オフの間にやってきた準備とその先に描く投手としての理想。
愛称は“豆苗”。その先にどんな変化を見せてくれるのか。

細い身体、丁寧な投球、熱い心
 あだ名となっている『豆苗』は、やっぱり今も自宅で育てている。
「僕、自分で料理するんですけど、最初は炒め物からはじまって、次にパスタに入れるのがハマったんです。そこから豆苗のスープを作ったりもしたんですけど、最終的には結局パスタに戻ってきてしまいましたね。そんなにレパートリーはないんです。だいたい2回目までは伸びて来るんですけど、豆苗って3回目になると弱いですね。僕も2度でも3度でも美味しい人間になれるよう、がんばりたいですね」

 入団時は181センチ、73キロ。細い身体からは似つかわしくない力のある速球を投げる。しかして、その性格は温厚。物腰もボールコントロールも低めを付いてくる。俺が俺がのタイプが多いプロの世界では控えめなタイプながら、2月3日の誕生日には「メルセデス・ベンツ」「山あり谷ありモハメド・アリ」なんて豪気な一発ギャグをやり切ってしまう度胸もある。
「昔からそんなに積極的に前に出るタイプじゃないんですよ。リーダーシップみたいなものもあんまりないと思っていますし、どっちかというとみんなの勢いに乗っかっていかせてもらうようなタイプの人間です」

 チームメイトからのあだ名は『豆苗』。その細い見た目からして、野球選手としてはおよそ誉め言葉とは思えない二つ名ではあるが、そんな愛称にも大貫は「あだ名はないよりもあった方がうれしいですからね」と笑顔を見せてしまう。実に穏やかでありながら、ノリもよい青年である。

 そんな大貫は2年目となった昨年抜群の安定感でチームの勝ち頭となる10勝を挙げた。大貫の活躍を報じる記事には、右ひじの手術など紆余曲折を経てプロ入りに至った経緯。7月4日の阪神戦で1イニングKOを喰らった3日後から破竹の5連勝を飾った復活劇などを以て「細くても栄養価が高い」「豆苗は何度でも蘇る」など、「頼りないはずの豆苗が、実はすごい」と効用に準えた“豆苗大喜利”となり、一気にその名を広めることとなった。

 『豆苗』。苦しい時の当意即妙。実際のところ、大貫は、どう感じていたのだろうか。
「いやいや、ありがたいですね。ただ、実は、最近はあんまり豆苗とも呼ばれなくなっているんですよ。それはそれで、脱豆苗でもいいのかなと思っています。僕、本当のことを言えばマッチョになりたいですからね(笑)。
 昨年のシーズンが終わってから、体重を増やそうとしているんです。食事もたんぱく質を多めにごはんをたくさん食べて、プロテインも飲んで、トレーニングで鍛えながら、6キロほど増やして人生初の80㎏台が目前だったんです。ただ、気がついたら4㎏ほど痩せてしまって今は76キロなんですけど、まだ諦めていませんよ。一度は80㎏台の身体になってみたいとひそかに企んでいます」

 このオフの肉体改造で“豆苗からごぼうぐらいになれたら”なんて謙遜していた大貫には、ごぼうどころか大黒柱への期待が掛かっている。昨年の夏以降はじめてローテーション投手として投げ続けられたことで、自分に足りない課題も見えてきた。このオフの間に1日7食という難問に挑んででも体重を増やす必要を感じたことも、フォーム解析をして課題を洗い出したことも、今シーズン、最後までローテーションの軸として投げ続けるための準備であるという。

 「僕のピッチングの持ち味は、やっぱり低めにボールを集めてゴロを打たせること。それと同時に今年はこれという場面でしっかり狙って三振を取れるようにしたいんです。昨シーズンが終わった時から、そう考えて準備してきました。手応えはまあまあです。開幕からここまでは1試合で取れる三振の数も増えていますし、体重も増えて速球に力も出てきました。オフからやってきたことが実になってきているなと。コツコツと少しづつですけど前進していると感じるような場面が増えてきましたね」

自分でコントロールできない“結果”と“他人”には囚われない
 「今年は開幕からローテに入ることができましたが、これを1年間一度も穴を空けずに投げることができるか。先はとても長いですよ。そのためには、ただ投げているだけじゃなくて、やっぱりいろんな工夫が必要になってきます。シーズンでは投げているボールのクオリティも疲れ方も、1試合ずつ上がったり下がったりなので、次の登板までにコンディションを整えるにも、疲労の抜き方だったり、トレーニングをする準備にもしっかり気を遣わないといけません。開幕してからまだ4試合(4月21日現在)しか投げていませんけど『いいボールが行っている』と感じられたのは最初の1試合目、2試合目ぐらい。3試合目のヤクルト戦、4試合目の中日戦となると、結果は別として自分の思うようなボールが投げられてはいませんからね。ただ、悪いなら悪いなかで一定のレベルを保つために、どうすればいいのか。大事なことは準備を万全にすること。自分でコントロールできない“結果”と“他人”は気にしてもしょうがないので、失敗したら素直に反省して次に進む。三浦監督や木塚コーチ、川村コーチにもいろいろと話を聞きながら打開策を探しているような状態です」

 今季4試合目の先発登板となった4月20日の中日戦。チームは8連敗中の重い空気が漂うなか、大貫の調子も本来のものではなかった。
 結果は中日打線に6安打を浴び、三振も2つしか奪えなかったが、カットボールとスプリットにスライダーなどを低めに集め、本来の持ち味である打たせて取る投球で要所を抑え、7回を無失点。昨年の沢村賞投手・大野雄大との0-0の投げ合いに一歩も引かなかった。
「僕自身、その前のヤクルト戦でも打たれていましたし、チームも苦しい状況が続いていたので、悪い流れをなんとか変えたいという意味で、いつも以上に『やってやるぞ』という気持ちが大きかったですね。ただ、あの日はブルペンから調子が悪いことはわかっていました。しかも相手は大野さん。簡単に点が取れるピッチャーじゃないので、絶対に先取点を取らせちゃいけない。とにかくコントロールミスだけはしないように戸柱さんのリードについていくつもりで投げました。ただ、どんなに熱くなってもなりすぎないように抑え込んで、頭は冷静でいること。一人出しても、次の打者を絶対に抑えられるよう、頭の中でしっかり整理をしながら投げられたと思います」

 丁寧でクレバーな投球の内側に、抑え込まなければならないほどの熱い思い。そういえば大貫の登場曲はUSヒップホップのDaBaby。彼のもつストーリーに共感するなど、表にこそ出さない熱い思いを内側に秘めている。
「ロックやヒップホップは大好きですけど、内側に秘めた熱い思い……という感じよりも単純に好きなだけですね。あんまり『やるぞ』と燃え滾ってしまうと、空回りしてあんまりいい結果にならないんですよ。なので音楽は好きで聞いているという感じでしょうか。一番熱くなってしまうのはやっぱり野球です。休みの日でも、散歩をしていても野球のことばかり考えてしまいますね。チームのこと、技術のこと、コンディショニング、データのこと。ベストを尽くすにはどうすればいいか。野球だけの人間になってしまわないようにとは常々考えてはいるんですけど、今のところ、すごく難しいかもしれませんね(笑)」

結果に浮かれず、毎試合が勝負。
 今季プロ入り3年目ながら年齢は27歳。先発投手陣のなかでは離脱中のエース今永昇太と並んで最年長となった。開幕投手の候補に名前があがりながら、その座を学年がひとつ下の濵口に譲ったことをどう捉えているのだろうか。

「もちろん開幕投手になれなかったことの悔しさはないわけじゃないんですけど、最善の準備だけできていれば、その先の結果にはあまり囚われすぎないように、ですね。開幕前から先発陣を濵口が引っ張ろうとしているのは、ものすごく伝わってきました。僕は最年長になりましたけど、やっぱり自分が先頭に立ってみんなをガーっと引っ張っていく感じは、まぁ……性格的にも難しそうなところなんですけど。実際のところ、まだ周囲に認めてもらうための信頼や実績というものは全然足りていないです。僕は僕でこれから上を見るためにも、足元をしっかり見て、1試合1イニングを抑えながら、一歩一歩積み重ねていくことだと考えています。
 もともと、僕はプロに入れるとは思っていなかったし、ベイスターズに入団できても1年目で結果がでなかったらすぐに終わるんだろうなという覚悟でいました。いま、3年目になって、去年勝てたこと。ローテで投げられているからって、そういう危機感が薄れたかというと全然そんなことはなくて、もし今年結果が出なければ、また終わってしまう可能性があるんですよ。去年、一番勝ったから安泰なんてことはまったく思っていなくて、僕の場合は確実に自分のできることをひとつずつ、頭の中で整理しながら、しっかりやっていかないとすぐにダメになってしまう。本当に、毎試合が勝負ですね」
 開幕からのベイスターズの厳しい戦いは続いている。大貫自身も5試合目の登板となった4月27日の広島戦では3回7失点でKOされてしまった。またしても訪れた高い壁。それでも、大貫はこの失敗も成長の糧にして次に進むに違いない。
 インタビューの最後に『豆苗はそのまま成長すると何の豆になるのか?』と聞いてみると、大貫は『うーん』と考えたのち、『何になるんですか?』と興味を示してきた。答えはエンドウ豆である。ベイスターズの前進、横浜大洋ホエールズの大エースの名は遠藤一彦だと、かまをかけてみると、大きく笑ってこう言った。
「それは面白いですね。いつか、そうなれるように、ひとつずつがんばっていきます」 

PROFILE
1994年2月3日、横浜市青葉区出身。181cm、76㎏。右投右打、投手。桐陽高校-日本体育大学-新日鐵住金鹿島を経て2018年ドラフト3位で横浜DeNAベイスターズに入団。1年目から先発として活躍し、2年間で16勝11敗。防御率3.44。背番号16

Writing: Hidenobu Murase
Photography: Seishi Shirakawa and Yokohama DeNA Baystars Photography

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