FEATURE
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TOBASHIRA
戸柱 恭孝
ISSUE THREE FEATURE

挫折の谷から
這い上がった強さ

ライオンが自分の子どもを深い谷に落とす。
可愛い我が子に試練を与えるという意味でも語られる言葉だ。
入団から2年間、正捕手としてホームベースに座っていた戸柱恭孝選手が“試練”として“谷底へ落とされた”のだとしたら。
我々は今、まさに逞しく這い上がってきた姿を目の当たりにしているのだ。

「今でもふと思うんです。そういえば去年2回途中で交代しとったなって」
インタビューで穏やかに答えた戸柱選手の表情が印象的だった。
辛かった時期を、いまこうやって振り返ることができるのは、それを乗り越えてこれたから。

2016年入団一年目から正捕手として起用されてきた戸柱選手。
2年目の2017年も正捕手として一年間戦い、日本シリーズにも出場した。
「試合に出て当たり前、ちょっとぐらい失敗しても(次の試合も)『どうせ俺が出るだろう』と思っていた」
当時の心境を、驕りがあったと振り返る。

2018年、その状況が一変した。
開幕スタメンこそ勝ち取るものの、だんだんと出場機会が奪われ一軍と二軍を行ったり来たり。
ようやく掴んだ一軍昇格のチャンスも、十分な出場機会が与えられないまま登録枠の関係で再び登録抹消、なんてこともあった。
「戸柱が非常にいい状態で昇格してきてくれた」
昇格を喜んでいた当時のバッテリーコーチも、悲痛な思いで再び二軍に向かう彼を見送るしかなかった。
後半戦が始まる7月中旬、オリックスから移籍した伊藤光選手があっという間にレギュラー捕手となると、 捕手2人体制のチーム戦略もあり、7月末から一度も一軍に上がることがないままシーズンを終えた。

谷底へと落とされた。

2019年になっても、その状況は変わらなかった。
谷底から這い上がろうとする戸柱選手に、それでも容赦無く試練が襲いかかった。
本人が「立ち上がることもできなかった」と話す2回途中でのキャッチャー交代の試合もこの年の5月。
今まで培った自信や野球観が崩れていった。

2020年、落とされた谷から這い上がってきた戸柱選手がいま、ここにいる。
谷底から上を目指す間に、いろんなことを自分の糧にしていた。
「人のせいにするのは簡単ですけど、僕は負けず嫌いなんでね」
折れそうになる心を奮い立たせ、落とされた原因をもう一度考え直した。
同じ状況で奮闘する仲間の存在も大きかった。
「2017年一緒に試合に出ていたメンバーがみんなファームにいた。
梶谷さん、倉本、桑原も…みんなで話していました。『ここで腐るのは簡単やから』って。正直僕一人だったとしたら今ここにいないと思います」

だからこそ8月9日、倉本選手が打った満塁本塁打は自分のことのように嬉しかった。
一緒にもがいて、同じ時期に苦しんだメンバーが、いまみんなで一軍の戦力として戦えている。
もう二度と手放したくないーー。

今シーズンも不調にもがく選手がいる。
どん底を見た戸柱選手だからこそ、そういう選手たちへの想いも強い。
「すごく悔しい気持ちは僕も同じ経験をしているんで、分かるんです」
喋るタイミングや相手の立ち位置を考えながらどう声をかけるか。
なんとかしたいという思いの中で、一番の悩みだと言う。
「逆に教えてください。ここは人間力の発揮どころですよね」

谷底から這い上がってきたライオンは、試練を乗り越え大きくなった。
あの苦しい時期を、「あそこからここまで這い上がってこれた」と前向きに捉え、
技術的なレベルアップはもちろん、どんな状況でもブレることのない逞しさと、人の痛みが分かる捕手へと成長を遂げた。

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