コラム

小さな光を集めて
――三浦大輔監督、1年目の内省と収穫

2021/11/01

 10月26日の夜、横浜スタジアムは胴上げの舞台となった。

 満面の笑顔で輪をつくり、指揮官を天に押し上げたのはスワローズの選手たちだ。

 今シーズンの本拠地最終戦、ベイスターズは負けてリーグ6位の順位が確定。勝ったスワローズは、敵地の大型ビジョンで2位タイガースが敗れるのを見届ける形で優勝の瞬間を迎えた。明と暗はくっきり分かれた。

 そのとき三浦大輔監督は、監督室にあるモニターをじっと見つめていた。

「だいぶ前に優勝の可能性が消えて、CSの可能性も消えて。そういう状況でも胴上げを見ると、やっぱり悔しさがこみ上げてきました。それと同時に……うらやましさも出てきた」

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「初回から試合にのめり込んでいた」

 広島で行われた2日後のシーズン最終戦にも、0-7で完敗した。143試合を戦い抜いて、54勝73敗16分。それが、就任1年目の結果だ。

 要因は1つや2つではないだろう。ただ、こう明言した。

「監督として、選手が持っている力を十二分に発揮させてやれなかったことがいちばんだと思います。結果はすべて監督の責任」

 新指揮官のもとスタートした2021年のシーズンは、出だしで大きくつまずいた。3・4月の戦績は、6勝21敗4分。4月27日の段階ですでに「16」の負け越しを背負った。

 当時の思いを淡々と振り返る。

「外国人選手の合流が遅れることは、開幕前からわかっていたこと。そのぶん、若い選手も含めて、チーム全員でやってやるぞという気持ちでスタートしましたけど、結果に結びつけることができなかった。いま思えば、自分自身もすごく未熟だったというか」

 ここから、三浦監督は内省の言葉を紡ぐ。

「4月は特にそうでした。初回から試合にのめり込んで、選手たちといっしょに戦っているような気持ち。もちろんそういう気持ちは必要なんですけど、持っていき方がちょっと違ったかな、と。守備のときはピッチャーといっしょに投げているような気持ちになってましたし、攻撃のときもそう。だから、試合が終わったあとの疲労感がすごく……初めてだからというのもあったかもしれないけど、現役のとき、自分が投げ終わった試合のあとみたいな疲れ方。それが毎日続いていくような感じでした」

 選手として、さまざまな監督のもとでプレーした。引退後、現場を離れて野球を見る時間もあった。監督とはこうあるべし――そんなイメージは心の中に思い描けていたはずだったが、実際その立場になってみて、想像と現実とのギャップを感じざるをえなかった。

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視野狭窄から脱け出すきっかけ。

 開幕直前のインタビューで、三浦監督は言っていた。

「何々しなければならないってなると、絶対よくないなと思います。『え、何で?』って。ぼくの中ではクエスチョンマークが出てくる。だから、臨機応変にいろんなパターンを持っておきたいなっていうのはありますね」

 ところが、試合中のベンチでは思考の自由度が奪われた。

「入り込みすぎて、あまりにも視野が狭くなっていた。シーズンを戦っていくなかで春先を振り返ったときに、そう感じることがありました。『こうしないといけない』って思い込みすぎていた部分もあった」

 三浦監督が視野狭窄から脱け出すきっかけとなったのは、球団に研修を行うこともある外部講師の言葉だった。

「時期は5月か6月ごろ。その方から『鳥の目、虫の目、魚の目』という3つの視点を併せ持つことの大切さを教わりました。『鳥の目』は俯瞰する視点、『虫の目』は細部を見る視点、そして『魚の目』は流れを読み取る視点。その話を聞いたとき、『あ、おれはずっと虫になってたな』って感じたんです」

 以来、試合の前になると、手帳にそのフレーズを書き記した。3つの目を見開くことを自らに言い聞かせるためだ。

 5月以降、チーム状況は徐々に上向いた。それとともに、三浦監督の動きも鮮明になっていく。

 その一つが4番打者の変更だ。開幕から4番として起用し続けてきた佐野恵太を3番に移したのは、5月18日のこと。当時、佐野の打率は3割を超えていた一方で、打点がなかなか伸びていなかった。「チャンスメイクのほうに」と考えての打順変更だった。

「そこも自分が固執した部分というか。4番と抑えはそう簡単に変えるポジションじゃない、と自分の中で思ってましたから。考えに考えて、佐野に4番を任せると決めたわけですし。でも、ああいうチーム状況で、佐野自身も苦しんでいて、打開策として打順を変えることにしましたけど、ちょっと遅すぎたかもしれない」

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誰が抑えを務めるのか。

 数字の表面をなぞれば、今シーズンのベイスターズには“打高投低”の傾向が見て取れる。

 まず「打」の状況を見ると、牧秀悟、桑原将志、佐野、宮﨑敏郎の4人が打率3割以上でフィニッシュし、わずかに規定打席に届かなかったもののT.オースティンも3割をクリアした。チーム打率.258はリーグ2位、総得点559も同じくリーグで2位の数字だ。

 このような結果を、「得点力の向上」を目指してきた三浦監督はどう受け止めているのだろうか。

「もっとできたんじゃないか、と思います。もっと効率よくといいますか、自分のほう(采配)で爆発させられたんじゃないか、と。それができなかった責任は感じています。反省のほうが多いです」

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 一方、チーム防御率(4.15)がリーグワーストとなったことが示すように、「投」はシーズンを通して安定しない状況が続いた。前半戦は、主に先発投手陣が苦戦。後半になると、ブルペン陣にほころびが出た。投打の噛み合わない試合も多かったことが、勝ち星の伸びを阻んだ。

 とりわけ「誰が抑えを務めるのか」が難題として降りかかった。当初は昨シーズンから引き続いて三嶋一輝が起用されたが夏場に調子を崩し、山﨑康晃がクローザーの座に返り咲いた。だが山﨑も痛打を浴びるようになると、以降は流動的な起用に。固定できないままシーズンの終わりを迎えた。現状、来シーズンの見通しは白紙の状態だという。

 ただ、後半戦に入り、先発陣が試合をつくれるようになってきたことは好材料だ。三浦監督は言う。

「前半、先発が試合をつくれなかったぶん、リリーフ陣に負担をかけてしまい、それが終盤になって出てきてしまったのかなと思います。後半は今永昇太、東克樹、F.ロメロ、大貫晋一といったところが状態を上げてきて、十分戦えるなというところを見せてくれました。キャンプからしっかり調整すれば、来シーズンは最初から力を発揮してくれると思うし、そうなるように持っていかないといけない」

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来シーズン、大きく輝かせられるように――。

 スワローズの胴上げを見届けたあとの本拠地最終戦セレモニー。マイクの前に立った三浦監督は、深々と頭を下げたあと、こう話した。

「いま胴上げを見て、悔しい気持ちでいっぱいです。選手たちも同じ気持ちだと思います。今年、新しい光も出てきました。小さな光もいっぱいあります。その光を集めて、来シーズン、大きく輝かせられるようにやっていきます――」

 開幕直後から、暗く険しい道を歩み続けることになった2021年。それでも指揮官はいくつもの“光”を見つけた。

 だから、これからのベイスターズを語るとき、三浦監督の表情も明るさを帯びる。

「先発陣の後半のがんばりもそうだし、先発陣が順調にいけばリリーフ陣もうまく回るようになる。あとは、牧や森敬斗といった若い選手たちも、課題がありながらも結果を出してくれました。来シーズンは、そういう光を集めて戦うことができると思っています。自分自身、143試合を通して変わってきたことは間違いないし、もっともっと成長しないといけない。1年間、監督をやってみて未熟さも感じましたけど、『来年はこうしよう』というものが見つかって、楽しみなところもあるんです。収穫は非常に多かったと思います」

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 今シーズンのスローガン「横浜一心」は貫けたか――。最後にそう問われた三浦監督はうなずき、言った。

「そのスローガンのもと、チームのみんなが取り組んでくれましたし、ファンの方も一つになって戦ってくれました。コロナ禍でいろいろな制限があるなか、ほとんどのファンの方がルールを守ってくださいました。球場の出入りや移動のときなど、選手に近づきたいし、いっしょに写真を撮りたいと思うような場面でも、皆さんがルールを守って我慢してくれた。本当に感謝しかありません。そうやって応援してくださったのに期待に応えられなかったこと、監督として申し訳ない気持ちです。来シーズンこそ、ファンの皆さんといっしょに喜べるようにしたいと思います」

 最下位から優勝へ、一気呵成に駆け上がる。

 次は、ベイスターズの番だ。