コラム

「我慢」の一年の先に
――柴田竜拓の挑戦は続く

2021/10/04

 4月23日、甲子園球場でのタイガース戦。8回裏に、そのプレーは起きた。

 代打・原口文仁の打球は高く舞い上がる。遊撃手の大和が背走しながら落下点に。白球をグラブに収めようとしたところへ、二塁手の柴田竜拓が左手を伸ばしながら飛び込んできた。

 ふたりは接触。大和の体の下に滑り込む形になった柴田は、その場に倒れ込んだまま、動けない。

 柴田が振り返る。

「風の影響もありましたし、自分が捕らなきゃっていう気持ちのほうが強くて、周りが見えていなかった。自分のミスでしかない」

 左肩の感覚はないのに、指先だけは動かせた。担架に乗せられ、グラウンドから運び出された。

 下された診断は、左肩の脱臼。開幕から1カ月経たずして、戦線離脱を余儀なくされた。

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“再現性”のカギはフィジカル。

「遊撃手のレギュラー獲得&打率3割」を目指して、2021年のシーズンに臨んだ。掲げた目標を、柴田は「再現性の高さ」と言い換える。

 カギになると考えたのは、フィジカルだ。

「まずは体を自分の思ったとおりに動かせなければ、再現性は得られない。もう3~4年前から継続していることではありますけど、その日その日で違う自分の体としっかり向き合う時間を一日のはじめにつくって、そこから技術につなげていく作業をずっとやってきました」

昨年8月、苦い経験をした。「ビックリするぐらい」体の動きが悪くなった。7月末の時点で「.317」あった打率が、1カ月後には「.259」に急降下。コンディションを取り戻すのに悪戦苦闘し、時間もかかった。

 シーズンの最中に対処することの難しさを痛感した柴田は、オフの期間に「強い体」を手に入れることを誓う。全日程消化後、数日だけ休みを取ると、すぐにレギュラーとして完走できるだけの体力強化に取り組んだ。

 そうして迎えた2021年、シーズン開幕戦に「6番・遊撃手」でスタメン出場。スタートの形としては上々だった。以降25試合のうち、スタメンを外れたのは6試合だけだった。

 4月23日のタイガース戦は、7-1と快勝した。2つの引き分けを挟む10連敗がストップし、開幕から苦しい星取りが続いてきたチームにようやく明るい兆しが見えた一戦だった。

 その試合も終盤に入った8回に、柴田は負傷した。

接触の結果、上からのしかかる形になった大和はひたすら謝った。柴田はそれを制止し、自分のほうから頭を下げた。

「明らかにぼくの追いすぎだったので。申し訳ないです、逆にぼくが悪かったです、と」

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故障は「変われるチャンス」。

 シーズン序盤の離脱は痛恨だったが、柴田はすばやく気持ちを切り替えたという。海を渡った先輩から、ある言葉を聞いたばかりだったからだ。

 ケガをする数日前、メジャーリーグに移籍した前主将、筒香嘉智と連絡を取り合っていた。そのとき、こんな言葉を送られていた。

「自分にコントロールできないことに左右されるんじゃなくて、自分でコントロールできるところにフォーカスする」

 ともにベイスターズで戦っていたころから、その思考法は伝授されていた。あらためて伝えられた言葉は、新鮮さを失うことなく胸に刻み直された。

 だから、すぐに前向きになれた。ケガをしたという事実をもはや自分でコントロールすることはできない。いまできることは何かを考え、そこに注力しようと決めた。

 リハビリ組の仲間の姿も、柴田に力を与えた。

「(田中)健二朗さんや東(克樹)が復帰を目指していて。トミー・ジョン手術の場合、年単位の時間がかかる。それに比べれば、1~2カ月なんて知れてるなって。何でこんなことでくじけてるんだろって。1年も2年も我慢強くリハビリに取り組んでいる方たちの姿を見てすごく勉強になった。根気強さ、気持ちの強さを見習わなきゃいけないな、と思いました」

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 復帰までの期間は、成長の好機と捉えた。肩の故障の前後で、体の動きに「明らかな違い」が出た。日常の中では「なかなか変化に自分から向かっていけなかった」が、故障が「いっきに変われるチャンス」を与えてくれたのだ。

 柴田は言う。

「徐々に(左肩を)動かせるようになってきても、やっぱりもともとの動きではない。その中で、いちばん自分のパフォーマンスを上げるにはどうすればいいかを考えました。外から見ただけではわからないかもしれないけど、自分の感覚では結構変化がある。新しく発見できたこともありました」

 6月19日に一軍に復帰。その後、左手人差し指の裂傷による登録抹消もあったが、8月14日から一軍の舞台に立ち続けている。

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「今年は我慢の年」

 柴田がレギュラー獲りを実現するうえで欠かせないのは、安定した打撃成績だ。今シーズンはここまで、打率.244。本人はどう評価しているだろうか。

「数字的にはよくないけど、粘りが出てきたかなとは思っています。去年までは、調子を落とすと、それが続いてしまっていたんです。悪くなりきらないと、戻らないというか。今年は、悪くなりきらないところで踏ん張れている。体と向き合えているから戻りも早いのかな、と」

 底堅さが出てきた一方で、上積みの物足りなさは否めない。2019年後半、2020年前半には、3割をクリアする打撃を見せていた。柴田は「もちろん、もっともっと打ちたい」と言いつつ、率直な思いを明かす。

「ケガをして、後半から(一軍に)呼んでもらって。正直、今年は我慢の年かなと思っています。目先の結果だけに逃げないというか、その場しのぎをやらないというか。今年はなんとか粘ることのほうが大切。それが来年にもつながっていくと思っているんです」

 自らを俯瞰し、日々コツコツと成長のための努力を惜しまない柴田の姿勢は、周囲の選手に好影響をもたらしている。

 自主トレ仲間でもある関根大気は「柴田さんの存在はすごく大きい。ぼくもこうしなきゃって気づかされる部分もある」と語り、ブルペンを支える砂田毅樹は「陰ながらチームを支えているのがカッコいい」と話していた。

 今年で入団6年目になる柴田は「陰じゃなくて表に出ていかないといけないですね」と笑みを見せがら、言った。

「でも、当たり前だと思うんです。チームのためにやるのが。ゲーム中、雰囲気がちょっと落ちてるなと思えば率先して声を出したり、負けた試合のあとのロッカーでも『お疲れさまでした!』と大きな声で言ったり。とにかく前向きに元気にやることが、ベイスターズのチームカラー。勝った、負けたで左右されるんじゃなくて、いつも一定の明るい雰囲気でいられるようにしていきたい」

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牧秀悟に感じる「人間としての強さ」。

 今年、内野手争いに新勢力が台頭した。2年目の森敬斗、そしてルーキーの牧秀悟。それぞれに持ち味を発揮し、一軍での出場機会をつかんだ。

 とりわけ牧の活躍は目覚ましい。柴田は言う。

「いいですね。そういう選手たちがいるからこそ、ぼくも成長できる。特に牧には、野球選手というより人間としての強さを感じますね。あの年齢にして、すごく芯がある。浮き沈みが本人の中ではあるんでしょうけど、それを周りに見せないんです。ぼくも学ばないといけない」

 今シーズン終盤は、柴田が遊撃手としてスタメン起用される試合が続いているが、二遊間のコンビはいまだ流動的だ。

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 今年果たせなかったレギュラー獲得の目標は、来シーズンへ持ち越される。

「『無事之名馬』というように、ケガをしないことがいちばんですね。ただ『ケガをしたくないからチャレンジしない』というのは、戦っていることにならないと思うので、チャレンジし続けながらもケガを防げるようにやっていきたい。あとは、やっぱり再現性です。すべてにおいて確率を上げられるように、もっと自分と向き合っていく。しんどいことから逃げず、苦しいこと、難しいほうに自分から挑戦していきたいと思っています」

 年を重ねるごとに存在を大きくしてきた背番号31。不動の地位を貪欲につかみにいく。