コラム

開幕投手インタビュー
濵口遥大「ぼくが先発陣を引っ張っていく」

2021/03/24

 3月20日、マリーンズとのオープン戦の終了後。横浜スタジアムのフィールドに設えられたステージで、三浦大輔監督がその名を呼んだ。

「今年の開幕投手は……濵口遥大です!」

 春分の日の出陣式。一塁側ベンチから駆け足で現れた左腕の表情は清々しかった。

 ここに至る道のりは、2021年の年明け早々に始まった。濵口が新指揮官に送ったメッセージ。型どおりの新年のあいさつに、「開幕投手をやりたいと思っています」と書き添えた。

 1月末、横須賀のファーム練習施設で初めて顔を合わせたときも、重ねてその意思を伝えた。

 何がそうさせたのか。濵口は言う。

「昨シーズンの後半、先発陣から今永(昇太)さんという柱が抜けた。そうなったときに、(先発投手たちは)『おれが、おれが』というより、自分のことに必死になっていて……。チームのことを考えると、やっぱり柱というか、引っ張っていく存在がいないといけないな、とすごく感じたんです」

 濵口自身、そう思いながら動けなかった。成績は振るわず、自分の登板に向き合うのが精いっぱいだった。

 オフに入り、考えた。

 先発陣に本物の競争を引き起こすには、先頭に立つ存在が要る。昨シーズンの結果だけを基準にすれば、10勝を挙げた大貫(晋一)さん、飛躍を遂げた平良(拳太郎)の両右腕が開幕投手の筆頭候補。でも2人は、胸に秘めた気持ちを声高に叫ぶタイプじゃない。

 それなら、ぼくが言おう。発言が伝われば先発陣の心に火がつく。自分にプレッシャーをかけることは、ぼく自身のためにもなる――。

刺激となった同期の存在。

 濵口の心境に変化をもたらした要因は、もう一つある。佐野恵太だ。

 2人は2016年のドラフトを経て入団した同期であり、同学年。指名順位は、濵口が1位で佐野が9位だった。

 4年目の昨シーズン、佐野は主将と4番打者という大役を務めあげた。それは濵口にとって、無視できない出来事だった。

「佐野の存在というのも、ぼくの中ではすごく大きいです。プロに入るときは指名順位のうえで多少は差があったのかもしれません。でも、いまはもう、ぼくのほうが遅れをとっているというのが正直なところで。負けたくないなっていうのはありますね。佐野だって、もともとそういう(リーダー的な)キャラだったわけじゃないけど、キャプテンという立場になって、あれだけやれている。チームが一つになって、前を向いて戦うために、ぼくにも何かできないかな、と」

 野手と投手は練習など多くの場面で別々に行動する。だからこそ、佐野の目が届きにくい投手陣を自分が見て、支えよう。

 5年目の自覚は、こうして芽生えた。

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 狙いどおり、春季キャンプの開始早々に“開幕投手直訴”はメディアで大きく報じられた。それに見合った姿勢、結果を示そうと、濵口は懸命に日々を過ごした。

 昨オフからキャンプにかけ、取り組んできた課題の一つがフォームの見直しだ。昨シーズンは後半になるにつれて球速が落ち、納得できるボールが投げられなくなった。

 同じ轍を踏まぬために、体の使い方を一から見直したのだ。「バイオメカニック的にフォームを一度、分解して。ポイントを理解したうえでつくり直す作業」。キャンプ、実戦と段階を踏んだいま、「大きな幹みたいなものはしっかりできた」と充実感を口にする。

「球速自体がそんなに出ているわけではないけど、ゾーンの中で強いボールを投げることができています。(球速を求めて)変に力んで質の悪いストレートになるぐらいなら、しっかりと強い、打者が速く感じてくれるようなボールを投げていきたい。それが、ぼくの武器である奥行きを使ったピッチング、縦の変化球の効果を高めることにもなると思う。(オープン戦最後の登板となった)ライオンズ戦でも、そういうピッチングができました。これがぼくのピッチングスタイルなんだなって」

 オープン戦では3試合、計9イニングを投げた。防御率は2.00、与えた四球は1つだけ。たしかな手ごたえとともに、開幕のマウンドに立つ。

心に効いた指揮官の言葉。

 昨シーズンの反省点は、メンタルにもある。

 柱を失った先発陣の中でアクションを起こしたい欲求。個人のパフォーマンスの復調。信頼の回復。苦しい戦いが続くチームに貢献するにはどうしたらいいか……。

 解決すべきことが次々と思考を占め、整理がつかないままにマウンドに上がった。走者を背負うごとに、さらに気持ちはかき乱された。

 今年の春季キャンプでも、同じ事態が起こりかねなかった。

 公言したからには目標を達成したい。フォームの見直しにもじっくり取り組みたい。意気込みが強まれば強まるほど、空回りのリスクも高まった。

 効いたのは、三浦監督の言葉だ。

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「キャンプのときから、常に『一歩ずつやぞ』と言っていただきました。野球が突然うまくなることはない。でも何かが一つ狂いだすと、そこからどんどん崩れていってしまうよ、と。とにかく一歩ずつ、自分の課題と向き合って。それができないのであれば、一段階下がって見つめ直していこう。そう言っていただいたことを意識してきました。これからシーズンに入って、うまくいかない時期も絶対に出てくると思いますけど、その意識は持ち続けていきたいなと思っています」

 ときにステップバックしながらも濵口は着実に前進し、3月11日へとたどり着く。

 翌日からの試合に備えて静岡入りしたあとのことだ。取材を受けるつもりでホテルの一室に入ると、そこには三浦監督と木塚敦志、川村丈夫両投手コーチが待ち受けていた。

「あ、サプライズ……」

 そう思った瞬間、脳裏に「開幕投手」の4文字が微かに浮かんだ。三浦監督の言葉で、それは現実になる。

「キャンプのときから、取り組む姿勢を見てきた。それをシーズンでも出していけるようにしよう」

 当時の状況を思い返しながら、濵口は言う。

「そういう目的を持って準備すること自体に意味があると思っていました。たとえ開幕投手になれなかったとしても必ずプラスになる、と。本当に開幕投手を任せていただけることになってホッとしたところもある……けど、ここからがスタートだなって。まだまだ、信頼を積み重ねられている立場でもないので、絶対的な信頼をつくりあげていくために、自分のやるべきことをやっていきたい」

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最高のスタートを切るために――。

 開幕は3月26日。背番号26の濵口は26歳だ。偶然の一致に本人も驚いている。

「最近まで全然気づかなかったんですけど、縁があるなと思って(笑)。何より、三浦監督の初陣なので。責任もあるし、光栄なこと。いい一日にできるように、そこからいいシーズンを迎えられるように、気負い過ぎないようにしながらも全力でやっていきたいなと思います」

 対するジャイアンツの1番バッターは、昨シーズンまで同僚だった梶谷隆幸になりそうだ。「味方のときは頼もしかったけど、敵となるとかなり嫌なバッター」。

 そんな相手に投じる、2021年シーズンの第1球は何になるのか。問われた濵口は「内緒です」と笑った。

 ただ一つ、これだけは決めている。

「自分の、いいボールを投げていきたい。変に迷ったりせず。これと決めたら、しっかり腕を振っていきたいと思います」

 自身も、チームも、最高のスタートを切るために――。

 戦いの火ぶたが切って落とされるのは、もう2日後だ。

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