NEXT STAR PLAYER #6

苦しい時期があったから
――森敬斗、試練の夏を越えて

2020/8

 想定外の幕開けだった。

 ドラフト1位。背番号6。きらめきを宿す大きな瞳――。

 希望の塊のようなルーキーはしかし、華々しく駆け出すことができなかった。

 新型コロナウイルスの影響による、まさかの開幕延期。立つべきスタートラインを失った18歳は何を思っただろう。

 森敬斗は言う。

「来年以降のためにも、シーズンの最初から最後までをフルで経験してペースをつかんでおきたかったので、その点に関してはちょっと残念だったなと思います。でも、そんなことを言っていてもしょうがない。プラスに捉えて、できた時間でしっかり自分を見つめ直そうと思って練習をしていました」

 およそ3カ月間にわたる自主練習期間を挟み、イースタン・リーグの開幕は一軍と同じ6月19日に決まった。

 ところが、森はしばらく試合に出なかった。

 開幕の1週間ほど前に、右肩を痛めていたのだ。

 ケガが癒え、同27日の試合に途中出場してようやくデビューを果たしたが、なかなか結果がついてこない。打率は1割台に低迷し、安打とは対照的に三振の数が積み重なっていった。

「こんなにも(自分の状態が)下に落ちるほうに変化があったのは、野球人生を通して初めてのことでした。凹んだっていうよりも、いろんなことを考えてましたね。どうしたら打てるようになるんだろう。本当にこの練習で結果に結びつくんだろうか、とか……」

 復調の兆しが見え始めたのは、8月の半ばごろだ。ヒットが出るようになると同時に、四球を選べるようにもなってきた。

next-star-player

 打撃不振の原因は何だったのか。そして、どのように“プロの壁”と向き合ってきたのか。

 森が振り返る。

「一つには、ケガ明けで実戦感覚が戻っていなかったことがあります。あとは、これまで結果が残せていたときにできていたことが、できなくなっていた」

 それは、具体的に言えば、タイミングの取り方だ。打つときに後ろに体重がかかり、「ピッチャーのボールを受けてしまっていた」。

 コーチや先輩選手に助言を求めているうち、「アゴが上がっている」との指摘を得た。その言葉を聞いたとき、森は気づいた。

「自分のいいときって、ボールを斜めに見るというか。(アゴを引いて)上からちゃんと見えてたなって。それで、いいときを思い出して、変えようと。そのことに気づけたのが8月の最初あたりでした」

 開幕からの2カ月間は教訓に満ちていた。

next-star-player

 まず大きな反省材料となったのは、開幕前にケガをして戦線を離れたことだった。

「キャンプのころから、高校のときよりはしっかりとケアをするようになっていましたけど、あのケガでアフターケアの大切さをより強く意識するようになりました。いま振り返れば、疲労からくるもので、防げたケガだった。自分が守っているべきところをほかの人に守られてしまったり……。それが悔しくて、『ケガってこんなにもったいないことなんだな』と痛感しました」

 そして、結果が出ないという現実を前にして苦悩したことそのものも、森はポジティブに捉えている。

「自分の中では『プロの球に対応できていないのか』それとも『自分の状態が悪いから結果が出ていないのか』の二択でした。結果的には、自分の状態が悪かったんだとわかりました。ちゃんと修正できたことはよかったし、初めてのことで戸惑いながらも考え方を整理して取り組むこともできた。あれだけ失敗したからこそ、同じ失敗はもうしないようにという思いが出てきて、こうして結果が出せるようになるまでやってこれたのかなと思います」

 入団以来、森はバッティングに関して3つのテーマを持って取り組んできた。

 軸をぶれさせないこと。練習、試合を問わず、常に強く振ること。そして、タイミングの取り方だ。

 開幕からの不振に立ち向かう過程でタイミングについてはひとまず解を得た。そして調子を取り戻しつつあるいま、バットスイングに関して新たな感覚をつかみ始めているという。

next-star-player

「悪かったときは、バットとボールの当たり方に厚みがなかった。すぐにボールがバットから離れていってしまう感じです。練習のときから、ボールがバットに乗っかっているような感覚を意識してきて、いまはそれがだんだんわかってきました。ボールとバットが長く当たっている感じで、ちゃんと捉えられている」

 日によっては、寮の食堂で一軍の試合の放送を目にする。まだ足を踏み入れたことのない世界。我がこととして捉えられる段階にはない。

 森は言った。

「まだ、近くは感じないですね。この舞台で結果が出せるようになったらいいな、ぐらい。ただ、自分としてはそんなに焦ってないんです。早く一軍に行かなきゃ、一軍で結果を残さなきゃっていうふうにはあまり思ってなくて。しっかりと積み重ねて、練習して、(一軍でも)結果が出せるようになってから行きたいなって思ってます」

 高卒1年目。焦りはないが、もちろん悠長に構えているわけでもない。

 現時点で思い描く未来の姿を、森はこう言葉にした。

「打てる、守れる、走れる。三拍子が揃った、しかもすべてがトップレベルにあるような選手を目指しています。自分の勝手な想像だけで言うなら、レギュラーを張って、1番か3番を打って、ショートを守っている。プロ3年目でそうなれたら」

 森のファームでの成績を見て、心配せずにはいられなかったファンも少なくなかったはずだ。

 だが本人は「もう心配ありません」と明るい表情で語っていた。

 一軍の本拠地、横浜スタジアムでその名が高らかにコールされる日はいつになるだろう。

 つぼみは着々と膨らんでいる。

next-star-player