NEXT STAR PLAYER #4

たゆまぬ努力を自信に変えて
――蝦名達夫、未来の四番へ

2020/6

 初球から思いきり振れたのは、準備ができていた証だろう。

 6月24日、ドラゴンズ戦の8回裏。

 蝦名達夫のプロ初打席。結果は内野フライ。

翌25日に出場選手登録を抹消されたから、一軍で見たのは、たった1球。

これから長く続く道のりの、原点になる1球だ。

 2020年のドラフト6位ルーキーは、春季キャンプの出だしから災難に見舞われた。

 潜在能力を高く評価され、一軍メンバーに選出されたが、キャンプインから3日目に左手薬指を骨折してしまったのだ。

 悲運のエピソードには、スケールの大きさを感じさせる要素も含まれている。

 負傷の日、蝦名は骨が折れたことに気づいていなかった。いつもどおりバットを握り、打撃練習に汗を流していた。

next-star-player

 蝦名は言う。

「そんなに痛くなかったんで……。(翌日に骨折が判明し)トレーナーさんからは『お前すごいな』って言われたんですけど、ほんと、自分の中では痛くなかったんです」

 きっと、必死さ、あるいは集中力が痛みを感じにくくさせていたのだろう。

 自身の性格について、22歳はこう言い表していた。

コツコツやるタイプかなっていうのはありますね。量をこなして自信をつけるタイプ。それが自分のいいところなのかなって

 プロ入りに至るキャリアの中での大きな転換点は、青森大学時代にあるという。

 3年生になり、打線の中軸を担った。当時の監督から、ハッパをかけられた。

「お前が打たなきゃ、このチームは勝てない」

 その言葉は、蝦名の心に重くのしかかる。

「3年の春、夏、秋と、プレッシャーに負けてしまった。実際、自分が打てなくて負けた試合もあったと思います。そこから『なんとかしなきゃ』という責任感が芽ばえてきた」

 1日1000スイングの猛練習で、厳しい冬を越した。

 そして4年生になり、わかってきたことがある。

調子が悪くなったときでも、自信があると、無感情で打席に入れる

 たとえば10打席連続無安打のバッターに、チャンスで打席が巡ってくる。そこで問われるのは、努力の「量」だ。

 蝦名が言う自信とはおそらく、打てる確信というよりも、「これだけやってきた」とごまかしなく言える自信のことを指す。そして、それを持てたとき、感情が消えるのだ。不安や迷いといたったネガティブな感情も、あるいは過信も消える。

 残るのは、純粋な物理の勝負。投手が投げ込む白球を、鍛え抜かれた肉体と、磨いた技術でただ迎え撃った。

 そうして4年生のシーズンに好成績を収めた蝦名は、秋のドラフトで、ベイスターズから指名を受けた。愛着のある地元青森を離れ、横浜に、大きな期待を背負ってやってきた。

next-star-player

 春季キャンプ、一軍の環境の中で過ごせた時間は短かったが、得るものは多かった。

 最初の収穫は「自分の位置」がわかったことだろう。蝦名は言う。

「キャンプの1日目からレベルが違うというか。周りの選手たちのレベルの高さと比べると、自分がちょっと恥ずかしかった」

 同じ外野手である神里和毅が守備練習に臨む姿を見て「一球一球に対するスピードや意識が違う」と衝撃を受け、大学時代に打撃フォームを参考にしたこともある宮﨑敏郎にも質問をぶつけるチャンスがあった。

 そんなタイミングでの骨折は、いまになって思えば、啓示のようなものだったのかもしれない。

やってしまったときには『せっかくもらったチャンスが……』と。でも、あれがあったからこそ開幕を一軍で迎えられたのかな、という思いもあります。自分の弱いところを見つめ直して、そこに対してしっかりトレーニングすることができたので

 185cm、88kgの大柄な体格。「いろんな方向に長打が打てるのが自分の持ち味」と語る蝦名だが、プロ入り後に指摘されたのは、下半身の弱さだった。

 骨折のためバットを握れない日々は、下半身の強化トレーニングで埋められた。やがて新型コロナウイルスの影響で開幕が延びたことも、故障明けだった蝦名にとってはプラスに作用した。

 焦ることなく、徐々に、徐々に――。

 下半身の強化から、バットを使った練習へと一歩ずつ前に進んだ。そして自信を手に入れるための、夜中の素振り。

 努力が実を結び、コロナ明けにファームで好成績を残していた蝦名は、6月、あらためて一軍行きのチケットを受け取った。

next-star-player

 昇格後の練習試合では9打数ノーヒットだったが、A.ラミレス監督は「光るものを感じる」と話し、開幕のメンバーから外すことはなかった。

 託された期待に応えることが、これからの使命だ。

 蝦名は、今シーズンの目標と、プロ野球選手として追い求めたい目標とを、こう語った。

今シーズンは、一軍・ファーム関係なく、『3割』という打率を目標にしてやっていきたいと思います。今後を長い目で見たときの目標は、自分が4番を打って、ベイスターズを代表するような選手になることです

 無骨な雰囲気を漂わせる努力家は、自らが望む場所へと、一振りごとに近づいていく。