NEXT STAR PLAYER #3

幹は太く、たくましく
――阪口皓亮、一軍へ再び

2020/5

背番号は「10」だった。

 2017年夏の甲子園。大会6日目に初戦を迎えた南北海道代表、北海高校の先発は阪口皓亮だ。エースでなかった理由を問えば、「シンプルに地方大会の成績がよくなかったんです」と苦笑した。

 神戸国際大付を相手に3回2/3を投げた。失点は1。接戦のすえ試合に敗れたから、右腕が黒土の上で陽光を浴びた時間は決して長くない。ただ、インパクトは強かった。

 どこか涼しげな立ち姿。長い四肢をしならせた柔らかな投球フォーム。とりわけ伸びやかな直球が見る者の目を引いた。

 秋のドラフト会議でベイスターズから3位指名を受けたのは、短くとも鮮烈な印象を残した証だ。

 大阪出身の阪口にとって、そこはいつも「始まりの場所」なのかもしれない。

 入団2年目の2019年5月3日、初の一軍登板の舞台もやはり甲子園だった。

 緊張感に襲われながら、無心の投球が功を奏した。このとき19歳の若者が、5回66球、被安打2、無失点の結果を得て「通用するかな」と感じたのも無理はなかった。

 だが、先発2試合目のマリーンズ戦(6月13日)で2回もたず3失点で降板。同20日のファイターズ戦でも、2点を失った初回だけで交代を言い渡された。

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 一度はフルに近づいた自信のメーターは、マリーンズ戦で半減、ファイターズ戦でほとんどゼロに。「初登板時の投球をもう一度」との思いは打ち砕かれた。

 一軍投手コーチを務めていた三浦大輔と木塚敦志の2人からは、こんな言葉をかけられた。

「体づくりと投球のスキルアップと。まだ若いから、その両方をやっていかなきゃいけない。しんどいのはわかるけど、それをやるのが仕事。ファームでしっかりと成績を残せば、また一軍に戻ってこられる。待ってるぞ」

 ただ、自信が不安に置き換わった阪口は、しばらく苦しんだ。

「投げれば投げるほど、沼にハマってしまった」

 特に、ストレートの感覚がおかしくなっていた。強い球を投げようとして力みが生まれ、結果的に球威は弱まり、制球も乱れた。

 底を脱した感覚を得たのは、8月8日、イースタン・リーグのイーグルス戦だ。この日の阪口は、7回3失点で勝ち投手になっている。ファーム投手コーチ、大家友和との取り組みの成果を出せたという。

「抹消されてからずっと力が出せなくて。出し方が違うっていうか……。それで、8割くらいの力でコントロールも意識しながら投げるようにしてみたんです。しっかり球の力強さは出すけど、力みのないフォームから投げる。それができたのが、8月の楽天戦でした」

 投げるほど沼の深みに沈んでいた状況は、投げるほど経験の積み重ねで改善される状況に転じた。10月、フェニックス・リーグに参加していたころには「考えて野球することができている」と言えるほどに、気持ちに余裕も生まれ始めた。

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 オフに渡ったオーストラリアで、さらなる成長へと歩みを進める。フォーム改良が、納得のいく水準まで一歩近づいた。

「12月の最後のほうまで試合をさせてもらって、投げやすいフォームが見つかった。バラつきがなくなって、困っていた制球にも自信が持てるようになりました」

 新旧のフォームを見比べると、左脚を上げる際にグラブの位置も高く掲げるようになった点が大きな変化だとわかる。ただ、本人としては、そこが最重要ポイントではない。

「グローブを上げたときにタイミングが合ったというだけで、そこまで深い意味はないんです。それよりも、意識しているのは下半身の使い方。簡単にいえば“ヒップファースト”になった感じです」

 踏み込みの際に尻から入っていく動きにすることで、下半身の力が伝わりやすくなり、ボールの力強さが増すと言われている。今年の春季キャンプも含め、その練習を重ねてきた阪口は、「タメがつくれて、角度のあるまっすぐが投げられている感覚がある」と話す。

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 開幕延期によって生じた期間は、投球スキルとともに課題に挙げられていた体づくりに重点を置いた。

「やっぱり、長く、多く試合はしたいし、開幕が遅れると決まったときは気持ちの動揺がありました。でも、プラスに捉えてがんばろうと思えた。この自粛期間が明けたときにより良いパフォーマンスができるように、と」

 鍛錬の成果は数字に表れている。

 甲子園に出場した夏、高校3年生だった阪口の体重は75kgほどだった。

 いま、プロで3年目の阪口の体重は88kg。春季キャンプからの変化だけでも、4kgほどのプラスだという。

「めちゃめちゃ増えましたね。高校生のころは細くて、いま考えるとちょっと気持ち悪いくらいです(笑)」

 ぐんぐん太くなる幹は、きっとまだ成長の途中だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除され、プロ野球の開幕も6月19日と決定した。例年より3カ月ほども長引いた調整期間、その成果を見せられるときが近づいている。

 涼やかな佇まいは変わらない20歳は、野球ができることがうれしそうだ。待ちわびたシーズンへの決意を、こう語っていた。

「一軍にずっと帯同して、成績を残して、チームに貢献することがいちばんの目標。ただ、もちろん結果にはこだわりますけど、野球ができることを楽しみながら、より良いパフォーマンスを出せたらなと思っています。まずは一軍初勝利。そこから一つずつ積み重ねていきたい」

ベイスターズの背番号「12」。今年、たくましくなった姿で必ずや一軍に帰ってくる。

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