NEXT STAR PLAYER #1

野球人生最大の挫折を越えて
ーー京山将弥、21歳の挑戦

2020/3

 京山将弥は静かに訂正した。

 昨シーズンの成績は、0勝6敗。21歳は「挫折を味わった」とまず言って、インタビュアーが付け足した「プロに入って初めての」という言葉に、こう反応したのだ。

「野球人生で、ですかね」

 小中高、そしてプロ入り後の3年間。すべての期間を通して最も強い挫折感に襲われた。

 マウンドにいるときと同じように表情を変えることなく明かしたが、未勝利に終わった悔しさは生乾きの傷口のごとく、いまも疼き続けている。

 1年目はファームで土台を固め、2年目は一軍に舞台を移して6勝を挙げた。順調に階段を昇ってきたからこそ、「10勝いけたら」との3年目の目標は、あくまで自然に口からこぼれ出た。

 だが、そこに落とし穴があった。

 2019年、京山は開幕カード2戦目の先発を託される。開幕戦の快勝で生まれたチームの勢いを、さらに加速させたいゲームだった。

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 結果は――3回2/3を投げて4失点で負け投手。つまずきの始まりだった。

『なんとかなるだろう』と思いながら投げていて、結果、ダメだった。そこからズルズルといきました。おととし(2018年)ちょっとうまくいって、そのままの流れで入ってしまったことがいちばんよくなかった」

 見通しの甘さがあったことは認めざるを得ない。実戦を重ねながら挽回することも難しかった。7試合目の登板となった5月12日のカープ戦。相手先発のアドゥワ誠にタイムリーを打たれるなどして失点を重ねた敗戦の後、京山は一軍から姿を消した。

 8月に2度、一軍での先発機会を与えられたが、黒星を増やしただけだった。

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 シーズン終了後の12月、今永昇太の誘いを受けてアメリカに行くことを決めた。シアトルにあるトレーニング施設「ドライブラインベースボール」を訪れることが目的だった。

 日本とは異なる野球へのアプローチは新鮮であり、刺激的だった。そこでの学びの一つとして京山が挙げるのは、新たなウォーミングアップの方法だ。

「手首に巻くチューブを使ったり、手首に重りをつけて腕を振ったり、重いボールをいろんな形で投げたり。そうすると、肩がすごく早く温まるんです。春先などのまだ寒い季節は特に、頼りがいのあるアップ方法だなと感じています」

 今永と多くの時間をともにし、野球について深く語り合えたことも大きな糧となった。

 たとえば、腕の使い方だ。京山は身振りを交えて言う。

「ヤスさん(山﨑康晃)がこう、マウンドでいつもやってますよね。そういうイメージで、腕を体に近づけたほうがコントロールしやすいよと、今永さんに教えてもらいました」

 山﨑が投球間に見せる、顔のすぐ脇で腕を振り、手を前に押し出すようなしぐさ。それと似た動きを思い描きながら腕を振る練習をキャッチボールのときなどに取り入れているという。

 もちろん、与えられるだけでなく、改善の道を自ら模索する努力も怠らなかった。

 昨シーズンから変化を加えた点の一つが、投球時に立つ位置だ。プレートの三塁側から中央付近へと変えた。

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「去年は、右バッターの外角を狙ったまっすぐが内に入ることが多かった。よりコントロールしやすくするために位置をずらしました」

 昨年5月のマツダスタジアム、アドゥワに打たれた球がそうだった。

 2ストライクまで追い込んだ後、捕手の戸柱恭孝は外角にミットを構えていた。しかし、京山が投じたストレートはシュート回転して甘いコースに入る「失投」。事前の分析で「バッティングはさほどよくない」とわかっていた投手にライト前に弾き返され、悔いを残す一球になった。

同じ過ちを繰り返さないために。

より高いレベルの投手になれるように。

 自らの体と投球をあらためて見つめ直すことに、オフの時間は費やされた。

 最近になって京山は、メジャーリーガーの投手が投げる動画をよく見るようになった。やがてその中の一人に強く惹かれ始めた。

 ニューヨーク・メッツのジェイコブ・デグロム。2018年のサイ・ヤング賞投手だ。昨シーズンは、ナショナルリーグ最多となる255個の三振を奪った。

 奇しくも同じ「48」の背番号をつける右腕は雲の上の存在だが、「少しでも近づきたい」と京山は言う。

「まっすぐとスライダー、チェンジアップがすごくて、ぼくの理想の選手。見ていると、自分も(デグロムのようなボールを)投げられるんじゃないかという気持ちになってくるんです」

 とはいえ、理想は遠く、現実は目の前にある。

 春季キャンプでは終始ファームに身を置き、ローテ入りを争うライバルたちはひしめき合っている。「一軍で活躍したい」と語る京山に自信のほどを尋ねると、「76%」と微妙な数字を口にした。

「80%になかなか行かないんです。まだ完成形じゃない。球種の多さでバッターに的を絞らせない投球が自分の強みだと思っていますけど、変化球の制球ができていない感じがあります」

 もし予定どおりに開幕していたなら、精度向上の時間は足りなかった。アピールの機会も訪れないままだったかもしれない。だが、延期によって生じた空白期間が京山にチャンスを与えた。

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 3月25日のタイガースとの練習試合。先発マウンドに立った右腕は2イニングを無失点で切り抜けた。

 試合前は76%だった自信は、これで80%に達しただろうか。依然として開幕時期は未確定だが、可能な限り100%に近づけるため、予期せず与えられた時間をめいっぱい有効に活用したい。

 4年目の今年はまず1勝、そしてまだ一度も達成できていないクオリティ・スタートを記録するのが目標だ。胸のうちには、長期的なビジョンもあわせ持っている。

25、26歳までには2ケタ勝利を達成したいし、ローテーションでずっと回っているようなピッチャーになっていないといけない。いまはまだイメージがつきづらいけど、そこを目標にしています」

 その思いを実現させるには、昨シーズンのような足踏みはもう許されない。

 チームの次代を担う投手に――。未来へのたしかな一歩を、今年こそ土に刻む。