FOR REAL -in progress-

逃げるな、攻めろ
――砂田毅樹、再び手にした自信とともに

2020/10/05

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

 左腕の名を読みあげた場内アナウンスの声が、秋の夜空に響いて消えた。

 10月1日、スワローズ戦。先発した武藤祐太に代わって砂田毅樹がマウンドに向かう。リリーフカーを降り、サイドステップで白線を跨ぎ、150g弱の硬球をグラブの中に受け取った。昨シーズンの一軍での最終登板、2019年9月11日以来の光景だ。

 砂田は記憶を噛みしめるように話す。

「拍手ですごい“声援”をいただきました。本当にここに戻ってこられてよかったなという気持ちと、ここからが自分のスタート、チームのためにがんばろうという思いがこみあげてきた。ランナーを背負った状態で呼ばれたので緊張はしていました。自分のルーティンとかもかなり忘れて」

 25歳は少しだけ苦笑した。

「何をしたらいいのかわからない」

 ブルペンに、なくてはならない存在だった。リリーフに専念し始めた2017年は62試合に登板。翌2018年は70試合に投げた。

 ところが、2019年になると、砂田の調子は落ちた。一軍とファームの行き来を繰り返した。登板16試合、防御率はキャリアワーストの5.11。育成枠から駆け上がってきた男にとって初めてと言っていい挫折の年だった。

「空回りしていたというか……。結果を出したい、でも、うまくいかない。何をしたらいいのかわからないっていう一年でした」

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 問題の所在が明確でなかったことが悩みを深くさせた。試行錯誤を繰り返す、暗中模索の日々。努力を重ねて、少しずつコンディションを上げ、やがて最大の壁に行き当たる。

 心だ。

 砂田は言った。

「いちばん苦しかったのは今年の春先です。ブルペンで投げているときの感覚がすごくよくても、どうしても気持ちがついてこなくて(実戦の)マウンドに上がると不安になってしまう。マウンドに上がるのがちょっと怖いというか……。コロナの自主練習期間中も状態はよかったのに、自粛が明けて『また試合が始まる』と思うと、気持ちがぶれ始めて」

 不安の根っことして思い当たるのは、昨シーズンの記憶だ。「自信を持って投げたボールが打たれていた」。その現実は、投手にとってあまりにも重く厳しい。

「(2017、2018年のメンタルとは)全然違いました。当時も怖さはあったけど、その怖さに立ち向かえていた。でも去年と今年の春先までは、勝負するのが怖かった。勝負から逃げようとしてしまっていたところはあると思います」

久々の一軍登板、最初の打者は村上宗隆。

 今シーズン開幕後のおよそ3カ月間は、喪失した自信の回復のために費やされたと言えるかもしれない。

「自分の中でも、何がきっかけだったのか明確には理解していないんですけど……自分の状態がよくなってきたので、それに伴って自信もついてきた感じです」

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 イースタン・リーグでは29試合に登板し、防御率1.32の好成績を残した。自らが感じる状態のよさが結果に変わるたび、砂田は少しずつ、また自分を信じられるようになっていったのだろう。

 心に強さが戻ると同時に、視線は一軍のチームに向き始める。

「自分は何を、どんな投球スタイルを求められているのか。そういうことをファームではずっと考えていました。一軍に上がって急にワンポイントでマウンドに送り出されたとしても『いきなりはちょっと無理だよ』っていう気持ちじゃなくて、どんな状況でも行けるような準備をして。左バッターはどう抑えるか、ランナーがいたらどうするのか。常に一軍を想定して練習に取り組んでいました」

 心身に充実感が満ち始め、一軍から声がかかるのが「待ち遠しかった」。9月30日、砂田は平塚球場でのファームゲームに登板。その試合後、一軍昇格の知らせを受け取る。

「うれしい気持ちが半分、不安が半分。(昇格の)前日、そして当日の朝も『大丈夫かな』って」

 その不安はあくまで、前回の一軍登板から1年以上の時を隔てたことから来るものだった。

 昇格した10月1日は、武藤を先発として起用するブルペンデーだった。砂田は3回途中、一三塁に走者を置いた場面で2番手としてマウンドに送り出された。

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 最初の打者はスワローズの若き4番、村上宗隆。緊張感は避けがたく、ボールが3つ、続いた。

「でも、バッターに対する恐怖心はありませんでした。自分の投球ができればなんとかなる、という気持ちのほうが強かった」

 村上は4球目を打ってファーストゴロ。併殺はならず1点を失うことになったが、砂田はこのイニングを最少失点で切り抜けた。

「投げているのが楽しかった」

 次の日も、その次の日も砂田は投げた。ファームでの登板から数えて4連投目となった10月3日、土曜日のドラゴンズ戦では2回途中からマウンドに上がり、3回2/3を投げるロングリリーフ。ホームランで3点を失ったものの(自責1)、自らの投球内容に首を傾げることはない。

「ホームランを打たれてしまって悔やむ部分はあるんですけど、自分なりにしっかりと投球はできていたなという思いはあります。(4連投でも)あまりきつさは感じなくて、逆に、投げているのが楽しかった。3イニング以上も投げたのはすごく久しぶりだったので、試合後とか翌日とかは疲れが出るのかなと思ったけど、体には何も変化がない。投げている最中も、自分の思いどおりに最後まで投げることができました」

 一軍での3登板で投じたボールは計64球。ひとつ気にかかるのは、空振りを一度も奪っていない点だ。

 だが砂田は、そのことをまるで意に介していないようだ。

「もともと、空振りで何かを得ようとはしていなくて、どちらかというとゴロを打たせてアウトを取るイメージが強い。まだまだ緊張しているのでパフォーマンスを100%出し切れていませんし、もっと堂々と投げられるようになってくれば、それ(空振り)は徐々に出てくるのかなと思うので。ぼく自身は全然、気にしていないです」

 むしろ本人が感じているのは、成長の手ごたえのほうだ。毎日のように登板していた2017、2018年の自分と現在の自分との違いを、はっきりと言葉にした。

「対左バッター。そこは特に意識してファームで練習してきました。以前は、逃げる変化球だけだったんですけど、いまは攻める気持ちをかなり強く持っている。どんどんインコースに攻めていく。そこは自信を持って、投げられています」

 ロングリリーフとなったドラゴンズ戦、砂田が最後に対峙した打者は京田陽太だった。二三塁にランナーを背負っていた。

 京田への4球目は、内角へのストレート。詰まらせ、サードゴロとした。

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「あの状況で、あそこにしっかり投げられた。やってきた結果が出せた」

 逃げず、攻めた結果の会心の一球。それを自信の糧にして、また次の登板へと砂田は備える。

「今年は全然チームに貢献できていないので、ここから1試合でも多く、チームのために投げたいと思っています」

 語る眼差しにも、生来の力強さが戻ってきた。