FOR REAL -in progress-

熱い気持ちは止められない
――T.オースティン、浮沈を経て

2020/09/28

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

 水曜日に9連戦が終わり、金曜日から10連戦が始まった。

 選手たちは、深まる秋の気配のなか、目の前の1試合に全力を注ぐ。

「ぼくが何よりも強く思っているのは、チームが勝つということだ。個人の成績がどうかなんて、まったく気にしていない。それは、アメリカにいたときも、日本に来てからも、同じ。残りのゲームは全部勝ちたいし、自分が貢献して勝つ試合が多ければ多いほどいい。それだけを考えている」

 そう語るのは、今シーズンから加入したT.オースティンだ。

 9月27日終了時点で36試合に出場して、打率.244、9本塁打、28打点。それは、開幕時の期待感の大きさに比べれば、物足りない数字かもしれない。

 だが、ニューヨーク・ヤンキースを皮切りにメジャー球団を渡り歩いてきた29歳の声に陰りはない。

気づいたらフェンスが……。

 初めてスタメン出場した6月23日のドラゴンズ戦でいきなり4安打をマークした。2日後に第1号ホームラン。長打を次々に放ち、日本球界への対応はスムーズだった。

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「アジャストできたというより、シンプルに、日本での野球を楽しもうと思っていた。あまり深く考えていなかったことが、いい結果につながったのかもしれない」

 しかし、強打者の活躍は長くは続かない。度重なる故障に悩まされてきた。

 開幕前には、右ひじ上部の張り。7月中旬には右手人差し指に張りが出て、登録を抹消された。

 復帰後の7月31日、甲子園でのタイガース戦。ライトの守備についていたオースティンは、打球を追い、その勢いのままフェンスに激突した。気丈にプレーを続けたものの、翌日から試合を欠場。その後、脳震とうとむちうちの診断を受ける。

 考え、考え、行き着いた答え。それは、逆方向に意識を置くことだった。

 メジャーリーグ在籍時は主に一塁手を務めてきた。外野守備に不慣れな部分があったのはたしかだ。

「この距離なら絶対に打球に追いつけると感じたから全力で捕りにいったんだ。フェンスがすぐそこにあると気づいたのはギリギリになってから。そのときにはもう遅かった。メジャーでも外野を守った経験は少しあるし、日本に来てゼロから練習し始めたわけじゃない。ただ、環境も違うわけだし、慣れという点に関していえば多少はチャレンジングな面があったかな。いまはもう、だいぶ慣れてきたよ」

 故障による離脱は、本人だけでなく、チームにとっても痛手になる。相手に得点のチャンスを与えることになろうとも、セーフティにプレーすべき――理屈のうえではそうあるべきことを、オースティン自身も理解している。

日米のピッチャーの違い。

 だが、捕れると思った打球を前にして追尾の速度を緩めることなどできない。守備だけでなく走塁に関しても、常にフルスロットル。オースティンは言う。

「自分が持っている力のすべてを出してプレーするということは、幼いころからずっと心がけてきたこと。当時の指導者から全力プレーの大事さを教えられ、それをいまも続けている。(ケガを防ぐために)抑えるべきときは抑えなきゃいけない、そんなふうに考えることはもちろんあるけど……ずっと貫いてきたスタイルでもあるし、なかなか難しいんだ。力を加減してプレーするってことが、ぼくにはちょっとイメージできない」

 一軍の舞台に帰ってきたのは9月12日。その日のドラゴンズ戦の第1打席で第5号となるスリーランを放ち、華々しく復帰を飾った。

 ところが、それ以降、当たりは止まった。3割2分台だった打率は、母数が少ないこともあって急降下していく。変化球を空振りする姿が多く見られるようになっていった。

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 オースティンは、日米の投手の間には「大きな違い」があると話す。

「日本のピッチャーのほうが変化球を多く投げてくる。ストレートは少ない印象だね。ストレートは、球速に関していえばメジャーのほうが速いけど、日本のピッチャーが投げる球には伸びがある感じがする」

 直球の“質”は違えど、「自分のバッティングに支障が出るほどではなかった」とも語るように、シーズン序盤のオースティンはストレートへの強さを遺憾なく発揮していた。

 しかし、対戦を重ねていくなかで変化球主体の攻め方をされるようになり、かつ度重なる故障を経て、フィジカルコンディションも開幕時と同じ状況にはない。現状を打破するには「少し時間が必要かもしれない」とオースティンは言った。

「野球を楽しむ気持ちは変わらない」

 直近1週間の打席結果が、いまだ不安定な状態をよく表している。

 23打数4安打。4安打のうち3本がホームラン。三振は7つ。本調子でないながらも、日々、なんとか結果を残そうと奮闘した軌跡だ。

 最も印象深い一打には、9月22日タイガース戦のホームランを挙げた。2点ビハインドの5回表、髙橋遥人の内角カットボールを振り抜いた、レフトスタンドへの豪快なスリーランだった。

「最終的に試合には負けてしまったけど、チームを(一時)逆転に導く一本だったから」

 冒頭のセリフにあるとおり、個人の成績は二の次。チームの勝利に貢献することを最重要視しているからこそのチョイスだ。

 N.ソトやJ.ロペス、A.ラミレス監督らと日本の野球、日本の投手について意見を交換し合い、一刻も早い完全復調を期す。

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 オースティンは言う。

「もちろん、日本のピッチャーがぼくに対してどういう攻め方をしてくるのか、学んでいかなければいけない。でも、日本に来てからも、ぼく自身が変わったり、何かを変えたりする必要はないと思っている。アメリカにいたころから、根底にあるのは『野球を楽しむ』ということ。その気持ちはまったく変わらないよ」

 9月29日からは、横浜スタジアムでの試合が続く。大勢の観客が熱視線を注ぐホームスタジアムでの試合は「すごくやりがいがある」。

「全力でプレーしたい。ケガをしないようにしながらね」

  残り30試合余り、ファンたちは横浜の秋空に美しい放物線が描かれるのを待っている。

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