FOR REAL -in progress-

変えぬ表情の裏側で
――大和の知られざる葛藤

2020/8/31

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

 たしかな手ごたえが、前進守備の外野の頭を越えるとの確信が、打った男を早々に笑顔にさせた。

 8月25日のカープ戦、4-4で迎えた9回裏。決着の一打を放ったのは大和だ。

 バットを放り投げ、悠々と一塁に到達すると、冷水を手にベンチから飛び出してきた仲間たちに取り囲まれた。

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「あの一日の自分の気持ちが全部出た」

 大和はそう振り返った。

「ダメな部分を全部出したい」

 今シーズン初めて、2番打者としてスタメン起用された試合だった。

 タイガースに在籍していたころも2番を任されることは多かったが、当時とはちょっと勝手が違う。

「タイガースのころは、2番といえばほとんどバントとかエンドランとか、そういう小技系がすごく多かった。ベイスターズみたいに、打ってどんどんつなぐっていうのは、自分の経験ではいままでになかった」

 実際、この日も“小技”のサインは出なかった。1番の梶谷隆幸が4安打をマーク。常に塁上に走者を置いた場面で大和の打席はめぐってきた。

 しかし、強攻は実らない。

 第1、第2打席は併殺打。第3、第4打席は空振り三振。

 自らがブレーキとなってしまったことに悔しさは募ったが、必要以上に気持ちを沈み込ませない術を、あるいは結果が出ないことへの怒りを見せない術を、大和は知っている。

「もちろん気持ちの浮き沈みはありますけど、1年間、野球をやっていれば誰しも必ずこういう日がある。いつかは抜けるトンネルだと思ってやってます。ゲーム中に喜んだり怒ったりっていうのは、自分はあんまり好きなほうじゃない。特に失敗したときの表情というのは、すごく影響力があると自分では思ってて。あまりそういう形で周りに影響を与えたくないなって」

 冷静さを保っていたからこそ、9回の状況もクリアに見えていた。サヨナラの走者が二塁にいて、4安打の梶谷はおそらく敬遠される。ここまで無安打の自分には代打が出される可能性もあると思っていた。

 A.ラミレス監督は背番号9の勝負強さに賭けた。打席に向かって歩いていたときの心境を、大和が明かす。

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「『いい結果を残そう』というよりも、その日の『ダメな部分を全部出したい』っていうほうが強かったですね。とことんダメならダメでいいし、一本出ればいい方向に向くし。その日のためじゃなくて、今後につながる意味で、ダメな部分が全部出ればいいなって思いました」

二塁手としての準備はできていた。

 調子が下り坂なら、さっさと底をついたほうがいい。そんなある種の潔さが、スイングから迷いを消した。

「追い込まれて三振、凡打というのがいちばん後悔する。とにかく初球を振りにいこうと思っていました。たまたま、振ったところにボールが来たって感じです」

 チームに勝利をもたらした打球はよく飛んで、フェンスのわずか手前で地に落ちた。

 今シーズン、すでに2本塁打を放ったことが象徴しているように、例年に比べ長打が多い。現時点での長打率.352はキャリアハイの数字だ。

「去年、なかなか結果が出なくて悩んでいるときに、監督が『バットを寝かせて打ってみたらどうだ』って言ってくれて。最初はうまくいかなかったけど、去年だけのためじゃなくて、それ以降の野球人生に必ずつながると思って継続した結果がいま、こういうふうに出ている。あのときに(フォームを)変えて正解だったなって思います」

 28日のスワローズ戦では、およそ2年ぶりに二塁手として先発出場した。何度も飛んできた打球を、ブランクを感じさせることなく巧みにさばいた。翌29日には、華麗なグラブトスで遊撃手の倉本寿彦にボールを渡し、みごとな併殺を完成させる場面もあった。

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 大和は言う。

「すごく久しぶりで、いつもとは違う景色を見られたので自分としては楽しめました。2週間ぐらい前に、監督に呼ばれて『(二塁手としての起用について)どう思うか』って聞かれたんです。『監督の好きなように動かしてください』と言いました。少ない日数のなかでも最低限の準備はしてきたつもりです」

 チームが掲げる“デイ・バイ・デイ”ベースボール。複数のポジションを高いレベルでこなせる大和の存在は選択肢を増やす。

 だが一方で、それは「大和を起用しない」という選択肢もまた含んでいる。62試合のうちスタメン出場したのは35試合。143試合中123試合でスターティングラインアップに名を連ねた昨シーズンから、明らかにペースは落ちた。その事実は、すべての試合に出場したいと願う大和にとって重い。

「ここまでのシーズン、トータルして楽しめたかというとそうでもなくて。去年はゲームにたくさん出て、今年が大事な年になるって自分ではわかってました。そのなかで試合に出たり出なかったりで、自分の立場だとか、すごく不安な気持ちになる日もありました」

 最も苦しかった時期として、大和は7月を挙げた。その月、23~25日に3試合連続でスタメン落ち。28~31日まで、今度は4試合連続でスタメンに名前がなかった。

「当たり前にゲームに出ていたのが、急に出られなくなった。その現実を目の当たりにした」

 いつもと変わらぬ表情の裏側で、大和の心はかき乱されていた。

チームが勝てば救われる。

 転機になったのは8月1日、甲子園でのタイガース戦だった。

 5試合ぶりにスタメン出場した大和は4回の第2打席、左翼ポール際にホームランを放つ。プロ入り15年目にして初めての、甲子園での一発だった。

「プロ生活の間に甲子園で一本でも打てたらいいなと思っていたので、うれしかったし、自分でもびっくりしました。あの試合、ホームランも含めて3安打して、試合にも勝って。すごく気持ちが晴れた部分があった。あのころから自分の気持ちが切り替えられた」

 可能な限り試合に出たいと望んでいるのは、どの選手も同じだ。その選手たちが競い合い、結果を出した者が起用される。そして、何よりも大切なのはチームが勝つこと――。

 大和は、いわばチームスポーツの原点、原理原則に立ち返ったと言える。試合に出られないとき、ベンチを温める悔しさが消えることは決してないが、ひとまず自分の心の置き場所を見つけることはできた。

「(試合に出られないのは)何でだろうとかいろいろ考えたりもしましたけど、いまは気持ちの整理がついて、自分としっかり向き合えている。試合に出たいのはみんな一緒。そのなかでチームが勝つのが一番なので。チームが勝てば救われる部分もあるのかなと思います」

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 今シーズンは残り半分を切った。実力で、結果で、ユーティリティで、あらためて出場機会を追い求めていく。

「とにかく試合に出ることを一番に考えて。ポジションに関係なく、チームに貢献できれば」

 9月のスタートは首位ジャイアンツとの3連戦を皮切りに、13連戦が組まれている。

 卓越した守備、勝負強い打撃、内に秘めた熱い思い――。

 ラインアップは日替わりであろうとも、優勝を目指すチームに大和の存在は不可欠だ。