FOR REAL -in progress-

我らが牙城を守り抜く
――CSファーストステージ、本拠地開幕!

2019/10/05

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

刻一刻と、幕開けは近づいている。

 レギュラーシーズンを2位で終え、初のCS本拠地開催を実現させたベイスターズと、6連勝フィニッシュで最後の最後に逆転のAクラス入りを果たしたタイガース。その2チームが、ジャイアンツへの挑戦権を懸けて真っ向からぶつかり合う。

 1つ勝てば即王手の短期決戦。就任4年目にして3度目のCSに臨むA.ラミレス監督は、この日のために策を練ってきた。

 横浜スタジアムの檻に放たれた虎に、縄を掛け、その動きを封じることはできるだろうか。

 答えは、まもなく出る。

「選手のがんばりがあったからこそ」

 10月4日、「ノジマ クライマックスシリーズ・セ ファーストステージ」前日記者会見に姿を現したラミレス監督は、終始、和やかな表情だった。冒頭の挨拶で、2019年のレギュラーシーズンをこう短く振り返った。

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「すばらしい年だったと思う。序盤は苦しいスタートで、シーズンをあきらめてもおかしくないような状況だったが、選手が下を向くことなく一生懸命プレーし、ここまで上がってくることができた」

 就任初年度2016年の3位は、ベイスターズの歴史上は11年ぶりの好位置だった。2017年には2年連続Aクラス、そしてCSを勝ち抜いての日本シリーズ進出を果たした。ところが、2018年は4位にとどまった。あえて厳しく見れば、停滞あるいは下降の現実があった。そこから今年、2位の結果で切り返した。

失敗も含めた経験値の積み上げが采配の精度を向上させた――それが、ラミレス監督本人の見立てだ。

「チームをどうマネジメントするか、どんな選手起用をするかは、経験を重ねることによって、よくなってきた。試合に負けた時、自分の間違った決断によって負けてしまったのか、決断自体は悪くなかったけれども相手が一枚上手だったのか、というところもはっきりとわかるようになってきた。自分が下した決断に対して後悔しないことが私のポリシー。そのためにも、分析を重ね、学び続けて、常に100%ベストな決断をすることを心がけている」

 その真骨頂とも言うべき試合が、9月19日のカープ戦だった。

 0-7と大きく引き離されていた6回裏、ベイスターズはN.ソトの本塁打で3点を返す。

 ベンチが動いたのはその直後だ。戸柱恭孝に代えて嶺井博希を打席に送り込むと、その嶺井が安打で出塁。大和も続いて一、二塁となったところで、中井大介が四球を選んで満塁とする。この時、次打者の代打として準備を進めていたのは佐野恵太だった。

 だが、データが蓄積された指揮官の脳は、瞬時に別の答えを導き出した。

「カープの左ピッチャーに対していい結果を出しているのが佐野。もう右ピッチャーに交代しているから、ここでは佐野は温存し、梶谷(隆幸)で行こう」

 そうして直前に代打起用を告げられた梶谷が、同点に追いつく満塁ホームランを放つのだ。延長11回に及んだ激闘を勝ちきり、2位以上確定をぐっと引き寄せた一戦は、ラミレス監督にとっても特別な試合となった。

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「5回に代打で出した中井を残していたこと、戸柱をそのまま使い続ける選択肢もあったなかで嶺井を代打に送り出したこと、そして佐野から梶谷にスイッチしたこと。ギリギリまで考えて出した決断がすべてうまくいった。残しておいた梶谷が(8回に)また同点タイムリーを打ったりね。監督として、これほどうれしいことはない。私にとってだけでなく、誰もが忘れることのできない試合になったと思う」

 自身最高の2位という結果を、楽に手に入れられたわけではない。

 チーム防御率3.93はリーグ5位。チーム打率.246もリーグ5位。夏以降は主力選手の相次ぐケガもあった。

 最終意思決定者としての苦心があったことは、それらの数字や事実からも明らかだ。

 だが、ラミレス監督は、それをマネージャーの手柄だと声高に叫びはしない。あくまで主語は選手に譲った。

「たしかに監督として、いくらかはマネジメントが向上したのかもしれない。ただ、どんなにいいマネジメントを心がけても、プレーするのは選手だからね。選手のがんばりがあったからこそ、この順位で終えられたのだと思う。ケガ人が出た時も、若手がその穴を埋めてくれた。私の指揮の根底にあるのは、選手への信頼だ。代打ひとつとっても、信じているから打席に送り出せる。選手のことをよく知り、信じること。それが、2位という結果につながったんだ」

「彼は私の信頼を勝ち得たんだ」

 当初、CSファーストステージの対戦相手は、カープになる可能性が極めて高かった。ラミレス監督も、対カープを念頭に思考を巡らせていた。

 相手がカープなら、勝ち頭の今永昇太を2戦目の先発に起用するプランだった。第1戦の先発には複数の候補を思い描き、試合が近づいたころに決断する腹積もりだったという。

 タイガースが怒涛の追い上げで3位に滑り込んだのは、セ・リーグの最終戦。レギュラーシーズンの対戦成績は8勝16敗1分と、かなり苦しめられた相手を迎えることとなり、作戦をイチから練り直す必要性に迫られた。

 ベースとしたのはやはりデータだ。

 今シーズンのタイガース戦、7回2/3を投げて被安打5、1点も失っていない石田健大の名前がくっきりと浮かび上がる。大事な初戦の先発に決めた。

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「私が監督になって2年目、3年目と石田を開幕投手に指名したが、今年の彼は、私がずっと期待してきたパフォーマンスを見せてくれた。リリーフ、先発と役割を変えながら、チームに貢献したいという強い気持ちを示し、実行してくれた。彼は私の信頼を勝ち得たんだ。だからこそ、初戦の先発を託すことにした」

 一方、仮想カープのケースでは先発起用を予定していた今永については、ブルペンで待機させる策を選んだ。今永は、タイトル獲得が有望視されながら、ラスト2登板でいずれも7失点を喫していた。ラミレス監督は言う。

「たとえば最後のタイガース戦は、最終的に7点を取られはしたが、コンディション自体は決して悪くなかったと思う。ただ、『ここでこのボールを投げて大丈夫かな』といった迷いがあったように見受けられて、そこがちょっとマッチしていないようだった。(救援で)1イニング、2イニングなら、よけいなことを考えず、ファイティングスピリットを前面に出して投げてくれるのではないか。彼ほどのピッチャーなら、(先発で)1度投げさせて終わってしまうより、複数の試合にわたって投げてもらうほうが価値がある、とも考えている」

 2017年のCSファイナルステージで、左腕は2イニング3奪三振のパーフェクトリリーフを遂行した。ラミレス監督は「お前はこのCSという舞台でリリーフの経験があるだろう」と今永に思い出させ、その背中を押した。

 このCSにおいては、とりわけ先取点が重要な意味を持つ。タイガースのブルペンには、岩崎優、島本浩也、P.ジョンソン、R.ドリス、藤川球児らが揃い、リーグ1位の救援防御率を残した。彼らの出番をなくす展開、すなわち早いイニングに得点し、リードを奪う展開が望ましい。

「打順に少し変更を加えようと思う。先取点を取るためにね。初戦先発の西(勇輝)に対して、うちの打線はそれほど恐怖心を持っていない。何度も対戦しているし、先取点を取れさえすれば勝算は高まってくると思う。勝ちパターンのリリーフが出てくると相手のペースになるので、とにかく先発から点を取ることだ」

それぞれのプライドを懸けて。

 前日会見の質疑応答で、ラミレス監督はCSの采配のキーワードを尋ねられた。予期せぬ問いにしばし考え、浮かび上がってきたのは「プライド」の一言だった。

「はっきりと言えるのは、私たちが今シーズン、ホームですばらしい結果を残したということ(43勝28敗1分)。そうした誇りを胸に戦うべきだし、敵を見下ろすくらいの感覚でいいと思う。ここで試合をするなら、相手が誰だろうと勝利は譲らない。このホームを、この牙城を絶対に守り抜く。そういう気持ちが、まさにプライドだと思う」

 常にポジティブな指揮官は、こう言葉を継ぐ。

「分析など、試合に対する私の準備は、以前よりよくなってきている。そのうえで試合に臨み、ケースバイケースで決断をしていく。レギュラーシーズンではそれができた試合がたくさんあったのだから、CSでも同じようにできればと思う。いつも言っているとおり、80%はデータに基づいて、残りの20%はフィーリングで。とにかくベストを尽くして勝ち上がることしか考えていない」

 初戦の先発を託された石田は前日練習の後、大勢の報道陣に囲まれて、落ち着いた表情を見せていた。」

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「言われたのは2日前ぐらい。正直『あるかな』という気持ちを持ちながら準備をしていたので、びっくりというよりは、『やってやる』という気持ちのほうが強かった」

 リリーフ、先発、リリーフと役目を変えながら、シーズンを通してチームを思う気持ちはまったく揺らがなかった。先発7試合、救援33試合に登板し、4勝1敗10ホールドで、防御率は2.14。最後に再び重要な試合の先発を託された左腕は、殊勝に言った。

「いろんな場所で投げさせてもらいましたけど、自分の力だけではなくて、そういう使い方をしてくださったから、この数字が残っていると思いますし、そういう評価をしていただいたことをうれしく思う。感謝の気持ちを持ちながら明日、きれいなマウンドに立てればなと思います」

 きれいなマウンド、その一言に、2度の開幕投手を務めた男のプライドがにじんだ。

勢いをつけて西から駆け込んでくる虎たちから、我らが牙城を守り抜く。

クライマックスに上りつめる戦いが、横浜の誇りを懸けた戦いが、いま始まる。