FOR REAL -in progress-

10連敗でも、前向きに――不屈のカリビアンが教えてくれること

2019/4/29

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

 目をつぶり、無造作につかんだオセロの石を一直線に置いていく。
 すべてが「黒」になる確率は、1024分の1。ほとんどありえないと言っていい。

 だが、それは現実に起きた。ベイスターズの星取表に、10個の「黒」が並んだ。
「白」を差し挟むチャンスならあった。

 4月25日、横浜スタジアムでのタイガース戦。1点のリードを持って9回2アウトまでこぎ着けていた。7つ続いた「黒」の後に「白」をつまみ上げた感触がたしかにあった。
 レフトスタンドから湧き起こった歓声に目を開く。タイガースのルーキー、近本光司がダイヤモンドを走っている。逆転3ラン。白く見えた石は、照明を反射していただけだったのか。盤上に接する寸前、黒くなった。

 4月27日、東京ドームでのジャイアンツ戦。最終回のレフトスタンドに、拳を握り締める人々の姿があった。2アウト満塁から筒香嘉智が2点タイムリーを放ち、1点差に迫る。打席に、打率1割台と苦しむ宮﨑敏郎が入る。今日こそは白い石であれと願って手を開く――。

 息を呑んで、見つめた。
 いくら傾きを変えてみても、色は変わらなかった。

チャンスで打てないのは、実力のなさ。

 翌28日のジャイアンツ戦も、厳しい展開になった。
 7試合連続で先制され、7回までに7点を失い、得点はゼロ。日ごとに近づいていると思われた勝利との距離は、つかみ損ねているうちにまた遠ざかった感があった。

 劣勢の敵地に抗うように、一本の矢は放たれる。
 リーグトップの10号2ラン。N.ソトはその感触を「完璧」と自賛した。
 しかしなおも5点差、試合の趨勢を覆す一打にはならなかった。
 初回には1アウト二塁の先制機で、前日にも複数の得点機で打席は回ってきていた。

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 誰に言われずともわかっている。ソトは唇を噛む。

「ホームランの数はたしかに多いけど、もっとチームに貢献したい。何度もチャンスで回ってきたのに打てなかった。そこで打って得点につなげたかった」

 調子は上向きだ。開幕からしばらくは打率2割前後の状態が続いたが、6試合連続安打で2割5分近くまで上がってきた(成績は4月28日終了時点)。
 昨シーズンは、来日1年目にしてホームラン王となった。適応力の高さは今年も健在だ。

「去年から変わらず常に意識しているのは、しっかりと自分のスイングをして、自分のタイミングでボールを捉えること。それが結果的にホームランの数に反映されているんだと思う。今年は相手のピッチャーが研究してきている感じもあるけど、ぼくだって相手のピッチャーのことをわかってきているからね。お互いにどう対応していくかの勝負。個人的には、打率よりも打点のほうが大事だと思っているから、もっと打点を増やしていきたい

 10本のホームランを放ちながら、打点は16。7本がソロ、残り3本は2ランという現状が、30歳にそう言わせる。
 塁上にもっと走者がいれば――と考えたくなるのが人情だが、ソトは首を横に振った。

「得点圏打率はよくないし、チャンスの場面で打てていないのは自分の実力のなさ。もっとできたんじゃないか……そう思っている」

守りのミスは「カンケーナイ」。

 悔しさに歯噛みしたのは、打席だけの話ではない。
 4月9日の甲子園、息を吹き返した虎をなんとか振り切ろうとしたその時、フライボールを捕り損ねた。23日の横浜スタジアム、同じくタイガース戦で、またも落球のミスをおかした。

 単刀直入に訊いた。さすがに気落ちしたのではないか――。
 ソトは口元に微笑を浮かべ、まず日本語で言った。

「カンケーナイ」

 スペイン語に戻して、言葉を連ねる。

「特に最初の落球は負けにつながってしまったからね……。でも、試合に出続けている以上、ミスはどうしても起きるし、それも試合の一部だ。一つミスをしたからといって落ち込んでいたら、次に打球が飛んできた時に硬くなってしまう。だから割り切って、前を向くことが大事。自分ができることは何かといえば、しっかりと練習して、うまくなることしかないんだ」

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 試合ごとにセカンド、ライトと守備位置は定まらないが、内野守備の向上のため、ゴロ捕球の練習に重点を置いてきた。そのことが、2度のフライ落球の遠因だったのかもしれない。

 打つのが仕事だから。そんなふうに考えないのがソトの美点だ。
ないはずがないプライドを心の奥にしまいこみ、自らコーチに申し出た。「ノックでは、フライの打球を増やしてほしい。」

 ソトは言う。
「セカンドでも、ライトでも、何も気持ちの変化はない。プレッシャーを感じながら試合をしていると、結果が出なくなるから」

 連敗中に催された選手たちだけのミーティングでも、心の持ちようを確かめ合ったという。

「さっき言ったとおり、ミスは出てしまうもの。それを一人で背負い込まず、切り替えて、前を向いてやっていこう。お互いに助け合っていこう。そういう気持ちの部分を確認したんだ」

拳を固く、固く握り締めて。

 カリビアンのポジティブさは、何か重要なことを教えてくれている。10連敗という逆境に立たされたチームにとって、必要な何かを。
 ソトは言った。

「何よりも大事なことは、純粋に野球を、ゲームを楽しむことだと思う。いまは勝ちに飢えていて、勝たなきゃいけないというプレッシャーの中で戦っているから、どうしてもそういう部分を忘れがちになる。楽しむことができれば、リラックスして、自分の力を出せる。それさえできれば、ベイスターズはすごく強いチームになると思うよ。
 いまは大変な状況で、ぼくたちだって、いい気分でいられないのは当然のこと。ただ、一人ひとりがベストを尽くして自分の仕事をしたいという気持ちはみんなが持っているし、この状況をなんとか打開しようと必死にがんばっている。だから、引き続き、ぼくたちのことを見守ってもらえたらと思う」

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 平成も残すところ2日となった4月29日。
 東京ドームのレフトスタンドは、この日もびっしりと青で埋め尽くされていた。試合が進むごとに、それぞれの拳は固く、固く握り締められた。

 3回、得点圏で打席に入ったソトがフォークボールに食らいつく。三塁線への内野安打の間に、大和が生還。ほしかった打点がソトに、ほしかった先制点がベイスターズに入る。

 5回、ルーキーの上茶谷大河が踏ん張りどころを迎える。ノーアウト満塁。代打の阿部慎之助から三振を奪いはしたが、死球、ショートゴロ、ピッチャー強襲の内野安打で3点を失う。

 6回、追撃のタイムリーを放ったのは嶺井博希だ。センター前に弾き返して、1点差。ここから拳は白くなる。

 8回、歓喜のときは訪れる。2アウト三塁。大和が打った。物静かな男がバットで語った。同点。今日は絶対に勝つ。

その背中に石川雄洋は奮い立った。
 もがくチームに、万永貴司ファーム監督から「状態がいい」と報告が上がった。前日、鎌ヶ谷の試合でホームランを放っていた。帰りの電車の車中で、「明日から一軍」の連絡を受け取った。

 石川は冷静に言う。
「12連敗をぼくは経験している。10連敗中だと聞いてはいたけど、それは過去のこと。ぼくは今日から(一軍)ですし」

 同点に追いつき、2アウト一塁。一二塁間を強く抜く打球をイメージしていた石川は、一振りで仕留めた。「たまたま打球が上がってくれた」。一軍昇格即スタメン、猛打賞のヒーローはどこまでも落ち着いていた。

 拳をゆっくりと開く。白い石がそこにあるのをやっと確かめられた。

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 4月中の10連敗は球団として58年ぶりで、シーズン中に2ケタ連敗したチームが優勝を果たした例はないのだと、スポーツ紙は報じた。
 連敗を止めたいまなら強がれる。

 4月でよかった。取り返せる。
 ここから優勝まで駆け上がれば、新たな歴史をつくれる。
 令和の幕開け。顔を上げて、一歩を刻む。