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FOR REAL-in progress-

新たな職場で取り戻す己の武器

「FOR REAL-in progress-」
2018.8.6

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

 昨シーズンの夏、マツダスタジアムでの登板を最後に一軍から遠ざかった。

 2017年7月12日のカープ戦、砂田毅樹が2アウト一、二塁のピンチを迎えた7回裏。マウンドを譲り受けた藤岡好明は、代打の新井貴浩に四球を与えて満塁とし、岩本貴裕に走者一掃の二塁打を浴びた。

 出場選手登録を抹消されたのは、翌13日のことだった。

 2018年8月3日、にわか雨もあった横浜スタジアムには熱気がむんむんと立ち込めていた。前日までの『YOKOHAMA STAR☆NIGHT 2018 Supported by 横浜銀行』でジャイアンツに3連敗を喫したチームにとって、落とすわけにはいかない試合。勝負はもつれにもつれた。

 先制され、逆転し、追いつかれた。すぐに突き放すも、9回に再び同点とされ、延長戦に突入。10回表のマウンドは砂田に託される。

 2アウト一、二塁で、砂田からの継投――奇しくも昨シーズン最後の登板時と同じシチュエーションとなったところで、藤岡に声がかかる。本人が「そういう(前回と同じ状況だという)意識は全然なかった」と話すのも無理はない。実に1年以上の時を隔てて、一軍のマウンドに立つ瞬間がやってきたのだから。

 今シーズン初の一軍合流は8月2日。その前夜、昇格を告げられた時の心境を藤岡が明かす。

「うれしさもあったけど、不安もありました。でも、友人や家族からは『一軍で投げている姿を見たい』と言われていましたし、待ってくれている人たちの気持ちを考えているうちに不安は消えていきました」

 ホークスからファイターズ、そしてベイスターズへ。2度のトレードを経験し、プロとして13年目のシーズンを迎えた。それだけのキャリアを積んできたからこそ、一軍の舞台にいられることの重みがわかる。

「上がってきて、やっぱり特別な場所なんだと感じましたね。行きたくても行ける場所ではないですから。若い選手たちがどんどん力をつけてきて自分の立ち位置を考えるようになったことで、あらためてそう感じます」

 長引く試合展開、一人また一人と戦地へ赴くたびにブルペンに残る投手は少なくなった。「出番がある」気持ちを入れ始めた藤岡の心に、ある思いが去来する。

「今日で最後かもしれない。だから自分らしい投球をしよう、と」

 度重なる故障や肝機能低下など苦難の多いプロ生活を送ってきたが、藤岡は「いまがいちばん苦しいかもしれない」と語る。「あきらめるか、あきらめないかの境界線」の上を歩きながら、自分の心に問いを投げ、「応援してくれる人がいる。まだやり残したことがある」と思い直して前に進んできた。

 胸に秘めた覚悟はベテラン右腕を冷静にさせた。勝ち越しを許せない場面で強打者のバティスタに対峙し、サードゴロに打ち取る。続投した11回も三者凡退に抑えて攻撃へのリズムをつくった。

「逆球もありましたけどね、自分らしく投げられたかなとは思います。結果を考えず、自分のスタイル、ファームでやってきたスタイルを出そうと思ってあの場に立てたことがよかった」

 その裏、代打J.ウィーランドが四球を選んで2アウト満塁となり、倉本寿彦が初球を叩いて勝負は決した。23時のお立ち台に倉本と並んで立った藤岡は言った。

「(倉本は)いつも声をかけてくれる。ナイスバッティン!!」

 なお熱さの消えないハマスタに、その声は明るく響き渡った。

投げっぷりの良さが作り出す、2800回転のストレート

 4時間48分におよんだゲームの7回表、3-2と1点リードの場面で3番手として登板したのは三嶋一輝だった。

 イニング先頭の丸佳浩への初球は、149kmのストレートが内角低めに決まる。今シーズンの安定感からすれば、球界屈指の好打者をも圧倒できるかに思われた。

 しかし3球目、外角へのスライダーをうまくバットに乗せられて、同点ソロを被弾する。三嶋が振り返る。

「打たれたことは悔しいし、先発(東克樹)の勝ちを消してしまった事実も消すことはできない。でも、あまり後悔は……多少はありますけど、気持ちの切り替えはできていました。前の自分だったら、ずるずるいってたかもしれません」

 その言葉どおり、続く鈴木誠也、バティスタ、メヒアというカープのクリーンアップをぴしゃりと抑え、流れを相手に渡すことはしなかった。

6年目の三嶋もまた、常に辛苦がつきまとうプロ生活を送ってきた。

 ルーキーイヤーの2013年に規定投球回に到達し、翌2014年には開幕投手に抜擢された。しかし、結果を残すことができず、確たる立場を得られぬまま歳月は過ぎた。三嶋は言う。

失敗の数はたぶん誰にも負けないと思いますよ。1年目、2年目と本当に期待されていたのに、真逆の結果で、その期待を裏切ってしまった。こんなにも多くの人の期待を裏切ったことはなかったし、そんな自分が情けないなと……。結果が出ないと人は離れていくんだということも感じました。期待を裏切った代償は大きかった」

 挫折した若者は、再び光の当たる場所に戻るには「結果」を出すしかないと考えた。だが、心の幹はまだ細く、「結果」に翻弄されることとなる。

 点を失えば、なぜ点を取られてしまうんだと頭を抱えた。
 負け投手になれば、また期待を裏切ってしまったと落ち込んだ。
 結果、結果、結果――強すぎる思いが生んだ悪循環はなかなか断ち切れなかった。

 昨シーズン、三嶋は先発としてチャンスを与えられながらそれを生かせず、中継ぎに転向した。これが一つの転機となる。

「自分でもスピードや投げっぷりという部分に関して、もやもやした気持ちがずっとあったんです。だから『中継ぎをやってみないか』と言われた時は、『先発はもうあきらめてくれ』という捉え方じゃなくて、『違ったポジションをやることで、自分のパフォーマンスを上げてくれ』という意図なんだと感じました。意気に感じるというか、よし、やってやろうという気持ちにすぐになりましたね」

 三嶋に投げっぷりのよさが戻ってきたのはそれからだ。

今シーズンのストレートはコンスタントに150kmに到達するが、注目すべきは回転数だ。三嶋のそれは、1分間あたり2800回転を超えることもあるという。メジャーリーグの平均がおよそ2200回転、ともにサイ・ヤング賞投手であるジャスティン・バーランダーとマックス・シャーザーが2500回転ほどだというから、三嶋のストレートが誇るスピン量はメジャーを含めてもトップクラスと言える。

 さらに、ブルペンに職場を移して大きく変わったのがメンタルだ。過去の教訓に学び、「結果」の呪縛から解放された。

「中途半端な気持ちでマウンドに立って『今日は大丈夫かな』っていう思いで投げていた自分のことを思い出すと、すごくもったいなかったなと思うんです。もっとできることがあったんじゃないかって。みんなを代表してマウンドに上がっているわけですから、もっと自分を表現していい、自分らしく投げるべきだといまは思える。自分が持っている力をバッターにぶつけて、その後に結果がついてくるんだという考えになりました

 だから、丸に打たれた一発にも、悔しさはありながらも割り切れた。ブルペン担当の木塚敦志コーチから「ナイスピッチングだった」と声をかけられ、気持ちを強く保つことができた。「早くやり返したい」。その機会は翌4日の試合の9回にさっそく与えられ、三嶋は強気のストレート攻めで3人の打者を完全に封じ込めた。

 さらには5日の試合でも、3連投ながら2イニング4奪三振の快投。今シーズンの登板数は40試合に到達した。

「体は元気ですよ。でも、こんなに投げたシーズンはないですし、これからどうなるのかもまだわかりません。シーズンが終わって振り返った時に、『この1年、ちゃんと戦えたな』って思えるようにはしたいですね。チームとしては正念場ですけど、自分らしく、気持ちを入れて、チームに火をつけるような投球をしていきたい

 先週の6連戦は1勝5敗と苦しい戦いを強いられたが、真夏のゲームはまだまだ続く。いまこそ全員の力を結集し、この苦境から脱け出さなければならない。