FEATURE
17
MISHIMA
三嶋一輝
ISSUE FOUR FEATURE

ONLY HE KNOWS
「言葉の先にある世界」

2021年、三浦大輔新体制で抑え投手に指名された三嶋一輝
昨年シーズン途中から守護神に定着し一度の失敗もなく仕事を果たした彼が
今季巨人戦でのリリーフ失敗から中継ぎに配置転換という正念場を迎えている。
抑えと中継ぎ。経験したものしか語れない独自の世界での戦い

抑えとして、中継ぎとして
 衝撃的な敗戦だった。スターナイトでのセーブ失敗から、前日のセーブで一息ついた直後に起こった巨人戦、再びの逆転負け。そこからベンチを外れ、中継ぎへ配置転換が決まった翌日のインタビューだった。あるいは“取材拒否”だってできた状況の中、三嶋一輝はいつもと変わらぬ表情で取材場に現れた。

「僕は大丈夫ですよ。気にしていない……という言い方はマズイな。うん。結果は結果として受け止めて、もう次のことしか考えていないですよ。でも、それは逃げる逃げないの問題じゃなくて、プロ野球選手である以上やるしかない当たり前のこと。特に中継ぎに入ってからは、完璧に抑えても、打たれたとしても、結果で一喜一憂しないように意識してやってきたことですからね。まぁ僕じゃなくて周りの方が気を遣ってくれますよ。僕自身、中継ぎの時と同じように投げていても人の見方はこんなに変わるんだというのが実感です。やっていることは何も変わっていないんですけどね」

 穏やかに、理路整然と言葉を並べる。三嶋にとっては昨日の敗戦も、去年の勝利も等しく“過ぎていった過去”と捉えようとしている。

抑えても打たれても、感慨に耽ることなく次の試合がすぐに来るのがリリーフの宿命でもある。リードを守れず負けた悔しさはあるが、辛くて動けなくなるほど落ち込むことはない。何があっても過去は過去として、切り替えて前を向く。それはチームで一番の負けず嫌いと評される三嶋が、9年間の紆余曲折なプロ生活で生き残るために培ってきたリリーフとしての絶対条件である。

「本当のことを言えばね、打たれた日は、悔しくて悔しくて、負けた帰り道とかでも暴れたくなりますし、乗っている車をボッコボコにしてやろうかとか妄想したりもしますよ。

 でも、悔しがったり、『クソ』って吐き捨てたり、泣いたりとかもね。そういう姿は絶対に人に見せたくないんです。まぁ、周りには若い選手も見ていますからマイナスな姿は見せずに、ビシッとしていなきゃいけない意識もありますけど、それとは別に子供の頃からずっと。悔しい思いをガマンしてガマンして、もう歯をくいしばってね。笑っているんです。僕の人生って心の底から笑っている何倍も泣いているんじゃないかな。ものすごい期待を受けていたことも、それを裏切ってしまったことも、結果が出なくて、ファーム暮らしが長くなった時期もありました。いい時はヨイショヨイショと祀り上げてくれるけど、結果が出なくなった途端に手のひらを返す。そんな人もたくさん見てきた。だから誤解を恐れず言うならば、これしきのことで『ああ……もうダメだ』なんて思うはずがないんです」

 のぼったり、くだったり。アップダウンの激しい9年間の険しい道のりで、奢らず、挫けず、三嶋の心の幹は太く強く鍛えられてきた。

 「これまでも上手く行かない時、失敗してきた時に、考え方や、悔しさ、感情の押し殺し方。我慢したり時には発散したり泣いてみたりしながらね。学べたとは思うんですよ。失敗したとしても、これまで積み上げてきたものが全部消えるわけじゃないということもです」

 DeNAになって最初のドラフトで投手最上位の入団選手が三嶋だ。エース番号「17」と共に、大きな期待が寄せられたが、2年目以降結果が出なくなると期待は失望へと変わった。ファームへ落とされ、先発失格の烙印を押され、2017年途中には中継ぎに転向。崖っぷちまで追い込まれた。少ないチャンスでも“今日を抑えて明日を掴む”というサバイバルの毎日を乗り越えて掴んだポジション、敗戦処理からチャンスをものにし、2018年60試合、19年71試合。そして20年。シーズン途中、山﨑康晃の不調から巡ってきた“抑え”というブルペンの最重要ポジションへとたどり着いた。

逆転負けを経験して本当の抑えを知った
 中継ぎでも抑えでも、バトンの重さに違いはない。任された場所を全力で投げることに変わりはないと、三嶋は同じ気合で、同じように腕を振り続けてきた。

「ただ、僕がそのつもりでやっていても、抑えになると、やっぱり周囲の勝手が違いました。注目のされ方にしても、こうやって記事になることもそうですけど、ベンチに入らないだけでもニュースになったり、ちょっとした言葉でも報じられる。抑えれば『這い上がってきた男』と称賛され、周りの人に『すごいね』『頑張ってるね』と言われる。『這い上がるのは当たり前だよ』『ずっと頑張ってきたよ』って言いたい気持ちもあるけど、やっぱりそういうものじゃないですか。本当のうれしかったこと、苦しいことは結局自分にしかわからないし、本当のところは言葉には変えられないのかもしれないですよね」

 抑えとしての重圧や責任感。抑えた後のマウンドでハイタッチを交わす瞬間。言葉には変えられないよろこびや悔しさ。表に見える気合いや表情、仕草に出てこない心の奥底のところで、三嶋はそれを強く噛み締めている。

「最たるものはやっぱり……負けた時にね。投手をつないできて9回で自分が試合をぶち壊したら……ね。ヤバいですよ。いや、そんな言い方ないですけどね。本当に……なんて言うんだろう。ガーンというね、のしかかってくるような……ありますよ。周りの人はね、リリーフ陣で一番いいピッチャーが打たれたのならしょうがないとは言ってくれるんですけどね。実際に直面すると、想像以上にきついものがありました。それでもプロとしてやる以上は、前を向かなければいけないんだけど」

 昨年の三嶋は幸いにも、7月に抑えを任されてからシーズンの最後まで3勝0敗18セーブと、すべてのセーブシチュエーションで登板し、失点はあっても失敗をすることはなかった。

 しかし今年は開幕の巨人戦で同点の9回裏に先頭打者にサヨナラ被弾。抑えになってはじめての黒星を経験する。しかしそれはまだ序の口だった。

「同点から点を取られて負けた開幕戦もショックでしたけど、やっぱり3点差のセーブシチュエーションがありながら逆転負けにしてしまった7月の甲子園、阪神戦。あそこで初めて先発の勝ちを消して、チームの勝ちも消してしまった。昨年も抑えで投げて“失敗した時にどう感じるのかな”とは言っていたんですけど、いざ失敗してみると、これがクローザーなのかって。負けてみて、はじめてその意味を知ったというのか、長年このポジションを務めている人たちは本当にすごいと思いました」

 幸いにも、阪神戦ではリリーフ失敗の翌々日にはすぐに登板の機会が訪れた。ところが甲子園に三嶋の名前がコールされるとスタンドの阪神ファンからは一昨日の逆転を期待しての屈辱的な拍手が起こる。体験したことの無い圧が覆いかぶさってくる。

「結局、どれだけ考えてみても、負けたモヤモヤは試合でしか返せないんですよ。もう腹を括るしかないんです。何が何でも抑えてやるという強い思いはあります。ただ、気合いを入れていけばいいだけだったらこんなに楽なことはないんですよ。気合いを入れながらも周りが見えるようにね。それが見えなくなってしまうと、自分のピッチングも見失ってしまうから、頭の中で、うまいぐあいに半々ぐらいに調整しなければいけませんからね」

 あの試合も“やり返したい”という強烈な気持ちが入ったところに捕手の伊藤光が『おまえ、ファン増えたな』と言葉を掛けたおかげでうまくリラックスできたという。

 心は熱く、頭は冷静に−−。

それは、先日の東京ドーム、スターナイトでの失敗など、今季3敗と不得手にしている巨人戦でも、同じはずだった。だが、負けたという結果だけがすべて。その原因を探して前に進まなければならない。

「巨人への苦手意識は、正直なところ僕はないんですけどね。やっぱり、今年の成績を見ると打たれているし、僕も意識せざるを得ない部分はあったのかもしれない。ただ、なんでこんなに打たれるのか。考えてもこれという原因は見つからない。前日の1点差で抑えた試合も、翌日に逆転負けを喫した試合も、絶対に抑えるという同じ気持ちでマウンドに上がっているし、体調的にもまったく一緒でした。ただ、結果がこうなってしまうとやはり何かが違うんでしょうね。見ている人からすれば『気持ちが足りない』って言われてもしょうがないです。僕自身は技術的なものなのかな……とは思っているんですけどね」

悔しいが9割でうれしいは1割
 三嶋がルーキーの時から多大な影響を受けたのが現監督の三浦大輔だ。2021年、監督1年目のシーズンに三嶋は抑えに指名された。この期待に応えたいという思いは、その言動からもひしひしと伝わって来ていた。

「去年とは違って、最初から任されたからには、やっぱり1年間最後まで、抑えのポジションで投げたいなとは思っていました。打たれた時も、三浦さんに監督室に呼ばれるんです。朝走っていると『ちょっとこい』とか言われてね。あの巨人戦のあとも『これで積み上げてきたものがゼロになるわけじゃない。21セーブ挙げたことはお前の力だし、やられたことが印象に残っているかもしれないけど、大事な試合でも抑えてくれることはわかっている。周りは今まで以上にお前の練習や私生活の姿を見るから、今まで以上にしっかりやれ』と言われました。僕は『はい!』って返事しましたよ。心の中では『そんなんわかってるわ』と呟きながらですけど(笑)。

 ほんとに、ね。ありがたいですよ。だからこそ、これから先は中継ぎの三嶋になりますけど、やることは同じ。なんとか勝ちに貢献できるように頑張らないといけませんよね」

 そしてもうひとり。三嶋が降りたクローザーの場所には、今季ここまで中継ぎとして復調の兆しを見せていた山﨑康晃が戻ってきた。抑えというポジションを2人でつないできた新たな“Wストッパー”の関係もこれから先がどうなっていくのか楽しみでもある。

「マツダでヤスが初セーブを挙げた試合が終わった後ですね。僕はあがりだったんですけど連絡をしました。何を話したのかは……言えません(笑)。やっぱり特別な思いはありますよ。ヤス自身にだってね。今までの経緯もありますし、僕らは『18』を挟んだ2人でもありますから。でも、そういうことは現役が終わってから、時間がある時に、ゆっくりと話ができたらなと思っていますね」

 9年間のアップダウンが激しく濃厚だったプロ人生も、振り返ればあっという間に年長のグループ。満足できた年もあったが、やはり優勝に手が届いていないという事実は、三嶋の野球人生に達成感というものをまったく感じさせずにいるという。

「優勝することは本当に難しいことだし、みんな頑張っているけど、結局結果ですからね。やっぱり、悔しいが9割で嬉しいは1割ぐらいですよ。厳しいけど、そういう世界ですからね。まだまだ努力が足りないと思います。がんばらなきゃいけないです」

PROFILE
1990年5月7日福岡県福岡市西区出身。176cm/80kg。右投両打。投手。福岡工業高校から法政大学を経て2012年ドラフト2位で入団。プロ9年目。通算312試合29勝30敗39セーブ45ホールド。508奪三振。防御率3.99(9月29日現在)。背番号17。

Writing: Hidenobu Murase
Photography: Akinobu Maeda and Yokohama DeNA Baystars Photography

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