FEATURE
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KUWAHARA
桑原将志
ISSUE THREE FEATURE

COOL HEAD AND PASSIONATE HEART
「夏の終わり。考える人、走る」

ハマスタのフィールドに打って走って打球へ飛び込む桑原の姿が帰ってきた。
2年間の苦境を経て1番センターに返り咲いた“ハマのリードオフマン”は
“復活”ではなく新しい自分を作り上げてきた結果だという。
結果が欲しい。だから考える。熱いハートに、クールなブレーン。
夏だけじゃない、ハマスタのショーマン。新・桑原将志の時代が幕を開ける。

帰ってきたガッツマン
 夏が終わる。
 長い、長い、ロードの後。久しぶりに帰ってきた我が家。6月6日千葉ロッテとの交流戦以来だから、85日ぶりとなるハマスタへの帰還。シーズン中にベイスターズがこれだけの間、本拠地を空けたのは歴史上はじめてのことだという。

「ハマスタは僕にとってどんな場所か。ううーん……なんだろう。ファンのみなさんの歓声や熱気は……やっぱり忘れられないですよね。それがあるから頑張れる……ということは間違いなく言えると思うんです」

 考えて考えて、熟考した末に言葉を絞り出す。

 2021年夏の終わり。ハマスタに桑原将志の躍動する姿が帰ってきた。その幸せを嚙みしめている。一度は輝きを失いかけた、あの強かったベイスターズの1番センターだ。打撃に守備に走塁にと、“完全復活”と言いたくなるような今季の姿を、どれほどの人が待ち焦がれていただろうか。

 「……別に復活とかじゃないんですよ。どっちかといえば、これまでとは違った、新しい自分を作り上げている最中という感じです」

 2021年型の新・桑原である。この桑原も前代を踏襲する熱いプレイが身上。さらに長期ロードに出る前には2割7分5厘だった打率は、3割2分まで上昇し、8月22日には佐野恵太、オースティンを抜いて、セ・リーグ首位打者に立つなど、やはり“夏に強い桑原”を踏襲する。

「“夏男”も僕的には関係ないですね。たまたまそうなっちゃっているだけで、本当は春先から結果を出したいし、夏でも秋でも貪欲に打ちたいのは同じです。特に今年は『一年間何があろうとも、同じ準備をして、同じメンタルで打席に入ること』を強く意識して、それが続けられている。東京オリンピックでシーズンが中断したこの1カ月も、気持ちを切らさず継続できていたと思います」

 東京オリンピックの期間に行われたエキシビションマッチというNPB史上はじめての試みに難しい調整が迫られる中、桑原は打率3割近くを残し、後半戦が再開されても引き続き好調を継続させた。この1カ月余りのシーズン休止期間が実にもったいないと考えてしまいそうだ。

「“オリンピックがなかったら”とか、『考えても仕方がないこと』は考えないんです。僕は目の前の勝負にすべてを注ぐので、ダメだった時に暗くなる悪い癖にフォーカスされがちですが、それも悔しいんだから仕方がない。“調子がいい”、“悪い”と周りの人がとやかく言うことも、もう、勝手に評価していただいていいやという感じです(笑)。今は毎日、スタメンだろうと、そうでなかろうと、同じメンタルで、与えられた場所で必死にプレイすること。そのためには納得できるまで準備して試合に挑むことです。それができれば結果は後からついてくる。今シーズンは始まる前から“腹をくくって勝負する”と決めていましたから」

 悩み深き青年。多くの人が彼を心配し、いろんなアドバイスを送ると同時に、本人もいろんなことを考えてきたのだろう。言葉の端々から強固に自身のスタンスを貫こうという意思がビシビシと伝わってくる。それだけこの数年間は桑原にとって苦しい時間だったことが伺える。

「正直、最近は『今日の試合をどうするか』と考えすぎているので、今までの苦しかった時間を聞かれないと思い出せないというか。かといって忘れることはないですよ。この数年は一軍にいても『今日の試合は出られるのかな』と、気持ちの面で試合に挑む準備ができていなかった。その反省があるから、今は自分の置かれた場所で全力でプレイすることに集中できているし、その日の結果で一喜一憂もしない。結果に引っ張られすぎてしまうと、また去年までの二の舞ですよ。あの状態には二度と戻りたくない。だから誰になんと言われようが、自分の決めたスタイルを貫く。そう思えるだけでもこの2年は無駄じゃないと、今になれば思えますけどね(笑)」

2年間の低迷と“新しい自分”。
 2017年。ベイスターズが日本シリーズに進んだあの年。桑原は1番センターとしてチームを牽引していた。劣勢の展開でも桑原が出れば何かがはじまる。足でかき回し、時に勝負を決める一発を放ち、守備ではド派手なダイビングキャッチを決めるガッツマン。翌年には背番号「1」を拝命し、明るい性格も相俟って、ベイスターズの切り込み隊長役は向こう10年心配いらないと誰もが信じていた

 しかし2018年から1番打者として更なる高みを目指すため指揮官から要望が寄せられると、元々調子の波が激しかったバッティングは不安定に陥り、桑原が持っていた積極性や思い切りの良さが影を潜めた。表向きは明るく振舞っていても、苦しそうな場面ばかりが目につくようになると、2019年は72試合打率.186。2020年34試合打率.139と、この2年間の桑原は、その躍動をハマスタで見ることは叶わなくなっていた。

「特にこの2年間はファームにいる時間も長かったですからね。それでも決して下を向くことはなかったと思います。ファームには当時のファーム監督だった三浦さんやコーチの万永さんたちが『必ずおまえは、あの場所に戻れ』『おまえはこんなところで終わらない』と言い続けてくれていました。僕自身も“このまま終わってたまるか”ですよ。まぁ、あがいている時は本当に苦しかったですけどね。これまでも、バッティングをずーっと模索し続けて、試して、追い求めていましたけど……それが今のバッティングに活かされているかというと、何も繋がっていない(笑)。ただ、今は、わからないなりに考えてきたことが、解消されている。もっとシンプルに考えられるようになったということでしょうか」

 復活を臨む多くの声に、あがいてもがいて、何が何でも必ず一軍に戻るという決意が、桑原に腹をくくらせる。これまでのよかった時の自分を追いかけるのを辞めて、“新しい自分を作り上げる”という挑戦を決意させたのだ。

「考えすぎる」ぐらいがちょうどいい
 年が明けた2021年。新監督に三浦大輔が就任し桑原にとって捲土重来の絶好機。キャンプはファームスタートながら、オープン戦では規定到達でトップの打率を残し、開幕一軍を勝ち取る。

「僕を信じてくれた人たちの思いに報いるには、結果を出すしかないですから。グラウンドでは結果がすべてです。ずっと結果が欲しかった。ただ、結果結果と漠然と求めても、自分の本能や能力だけに頼っていたら、とてもじゃないけど結果なんて残せるものじゃないということに気がつけた。結果に対する裏付けに、自分なりの根拠を持ってやっていくことが必要だし、そのためには日々の中である程度の “腹をくくる”部分がないとやっぱりダメです。

 今までの僕は相手と駆け引きをする以前に自分自身に問題があったと思うんです。だけど、そこがクリアになった。ピッチャーと勝負するために、来た球を仕留めにいくための準備を、毎日同じようにすることで、向き合えるようになったという感じですね」

 新しい桑原。一年間同じメンタル、同じ準備で挑むことを貫くと決意し、はじまった2021年のシーズン。三浦監督からの期待を受けて、開幕スタメンで1番センターに名を連ね、何が何でも結果を残したかった開幕3連戦。しかし結果は初戦、2戦とノーヒットに終わってしまう。

「正直、焦っていましたけどね。開幕スタメンといっても、スタートラインに立てただけ。不安な気持ちも大きいし、実際に結果も出なかった。でも今振り返ると、あの2試合打てなかったことで、不安を打ち消すためには“次の準備をしっかりやればいい”という確証を得られたような気がします。試合を追うごとに気持ちの整理もできてきたし、本当の意味でしっかりと腹がくくれるようになっていったと思うんです」

 結果が出なければ疑心暗鬼になり、迷宮へと迷い込みそうになる。考え込めば考え込むほど出口が見えなくなることも知っている。ミスをしたり、うまくいったりの繰り返し。それでも“何があろうと一年間、信念を貫き通す”ということだけは、ぶれなかった。もちろん、崩れ落ちそうになる瞬間は何度もあった。

 たとえば、5月12日の巨人戦。同点で迎えた9回2死からフライを打ち上げた失意で全力疾走できず、結果相手の落球にも一塁ストップとなるボーンヘッドを犯した。続く26日のオリックス戦ツーアウト満塁からのなんでもないセンターフライを落球し走者一掃されるショッキングな場面も忘れられない。桑原は「なんで落としたのか今でもわからない」という、空白の時間。次の回に回ってきた打席で凡退すると、そのまま交代。翌日にはスタメンから外れたが、桑原の気持ちは折れなかった。8回に2塁走者の代走で出場すると、ショートゴロで三塁へ進む好走塁を見せ得点へと繋いでいる。

「今年の試合に出ている感覚は、以前、試合に出ていた頃とは意味合いがまるで違いますね。1打席に懸ける思いは今のほうが比べものにならないです。その分、打てなくても、ミスをしても安堵も悔しさも全然違う。ただ、あの落球は自分でもショックでしたけど、守備は守備。バッティングは別と区切りをつけてやっているので、引き摺ることはなかったと思います」

 しかしである。あの落球から3日間スタメンから外れたのち、6月2日のソフトバンク戦。先発のマウンドには落球時の投手、中川虎大。3回表、ツーアウト3塁。ホークス先制のチャンスに栗原陵矢が左中間へ鋭い打球を放つ。桑原は気がつくと“凄まじい気合い”で打球を追い掛けていた。

「同じメンタルで挑んでいても……あの守備だけはちょっと違いましたね。決して『やり返したい』という気持ちではないけど、あの落球が心のどこかに引っかかっていたことは間違いなくって。ダイビングキャッチでボールを捕った時は……少し興奮してしまいました。率直に言うと『どうだ、見たか!』っていうね。はい(笑)」

 翌日の試合でも終盤の危機を連日のダイビングキャッチで見事に防いだ桑原は、地面を叩きつけて大きく吼えた。熱い気持ちが球場中へと伝播する。フィールドの空気を作れる桑原の真骨頂がそこにあった。

「まぁ……なんというか。気持ちは熱くでも、結果を出すためにはやっぱり頭を使わなければいけないと思うんです。僕は考えすぎるぐらいのほうがいいんですよ。熱さだけでプレイをしても、結果が出なかったときに後悔しないわけがないですから。よい結果が出た時でも結びつける根拠がないと持続はできない。そう、やっぱり、腹をくくるためにも頭を使う。そこのバランスが大事なんだと思います」

 強固な意志と熱いハート。それを紐付ける考えすぎる頭を武器に生まれ変わった我らのニュー切り込み隊長。夏が終わろうとしている今、考えながらどこまでも突っ走る。新たな桑原将志の季節がはじまろうとしている。

 プロ入り10年目で生え抜き野手としては最年長になった。明るい性格からムードメーカーとしての存在感が際立ってきたが、これまでも、そしてこれからも自身のプレイや背中でチームを引っ張れる選手像をずっと理想として描いてきた。時に笑いを求められても、自分は自分でしかないので、飾ることもなく、自然体にありのままで突き進む。

PROFILE
1993年7月21日大阪府和泉市出身。174cm/78kg。右投右打。外野手。福知山成美高校から2011年ドラフト4位で入団。プロ10年目。通算630試合、472安打38本塁打154打点53盗塁。通算打率.258(2020年まで)。ゴールデングラブ賞(2017)、月間MVP(2017年7月)。サイクルヒット(2018年) 背番号1。

Writing: Hidenobu Murase
Photography: Kazuharu Igarashi and Yokohama DeNA Baystars Photography

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