私とベイスターズ supported by マルハニチロ

No.018

2019.08.07 wed

“巨人キラー”のきっかけとなった
伝説の4連戦

COLUMN by 平松 政次

 全盛を過ごした時期は、1965年から始まった巨人V9の時代。平松政次は、打倒巨人に並々ならぬ思いで挑んでいた。かつては憧れたGのユニフォーム。少年時代は長嶋茂雄に心酔した。だが入団が叶わなかった悔しさは忘れがたく、平松を奮い立たせた。
「登板前は入れ込みましたよね。眠れなくなるし、食事も喉を通らない。とにかく球界の盟主と呼ばれた巨人に勝たなければ一流にはなれないと思っていましたから」
 忘れられない試合がある。1972年シーズン前半戦、ホエールズは3位で首位巨人に追っていた。3.5ゲーム差まで近付いたオールスターゲーム直前の巨人との後楽園球場での4連戦、平松は7月18日の1戦目を投げ、完投勝利。チームは翌日の2戦目も勝利し、同20日のダブルヘッダーを迎える。
「1試合目も2試合目もわたしがマウンドに行ったんです。前々日に完投したピッチャーが出てくるわけですから、後楽園球場のほとんどを占める巨人ファンは驚くわけですよ。ダブルヘッダー1試合目、わたしはしっかり抑えて試合を収めると、もう今日の仕事は終りと思ったのですが、コーチからすぐそのあとにある4戦目もベンチに入れと言われたんです。するとまた試合終盤にわたしが登場するわけです。あの後楽園の『また平松か⁉』という異様な雰囲気は忘れられませんね。鳥肌が立つ経験でしたし、ピッチャーをやっていて良かったなって。本当に感激感動しました」
 分業制が徹底された現在ではまず考えられない起用法。困惑とあきらめの巨人ファンに対し、少数派のホエールズファンは狂喜乱舞した。「これが俺たちのエース平松だ」と。
 平松は巨人に対し、自身の全勝利数の4分の1となる通算51勝を挙げ、また憧れだった長嶋に対しては打率.193と完全に封じ込み、プライドと意地を見せるに至った。
 孤軍奮闘した平松ではあったが、結局、現役中にチームは優勝に届くことはなかった。平松いわく1969年から1971年あたりは投手力が高く、優勝するチャンスは十分にあったが、やはり巨人が強すぎたという。しかし厳しい状況であっても平松はエースの矜持を失うことなく、誠心誠意ゲームに向かっていった。
「とにかくエースとして自分がやらなくてはという気持ちが強かった。だからゲーム前は、食堂でにこやかに飯を食ったり、仲間と話したってことはありませんでしたね。それぐらい集中していました」
 その攻めの姿勢は、自慢のシュートで右打者のバットを数えきれないほどへし折ってきた一方、セ・リーグの最多通算記録となっている120個の与死球にも表れている。
 そして平松は、1984年に18年間の現役を終える。通算201勝は、ホエールズ・ベイスターズにとって金字塔である。
「優勝できなかったのは残念ですが、それでも平松はすごいと思われるように頑張ってきました。高いモチベーションを保てたのは、ホエールズの一員であるという誇り、それと故郷のため。岡山県の高校で、甲子園で優勝しているのは、わたしの代のときだけなのですが、絶対にあの優勝をフロックだと言われたくなくてプロで頑張ったんです。おそらく甲子園で優勝してなかったら、平松の名はプロ球界に残っていなかったかもしれません」

2017年 レジェンドマッチにて

 平松は200勝にもこだわっていた。名球会入りを果たし、あの長嶋茂雄や王貞治と肩を並べる存在になりたいと思った。ちなみに甲子園優勝投手としてプロで200勝を挙げ名球会入りしたのは平松だけである(同優勝投手だった王貞治と柴田勲は打者として名球会入り)。
「ホエールズは勝てないがゆえに努力のしがいがある球団でした。トップに巨人がいて、常に弱気になることなく向かっていけた。ホエールズだったからこそ、大黒柱として先頭に立ってみんなのことを引っ張っていけたと思うし、もし他球団だったらエースになれなかったかもしれない。そういう意味からすればホエールズに入団できて幸せだった。たいしたことのなかったピッチャーが、反骨心をもって成長できたのはこのチームのおかげですよ」
(前編はこちら)

(取材・文=石塚隆)

PROFILE

平松 政次

1947年9月19日生まれ。岡山県出身。岡山東商高時代の65年にセンバツで優勝。同年秋に中日からドラフト4位指名も拒否して日本石油に進む。66年第2次ドラフトで大洋に2位指名され、翌年の都市対抗優勝後に入団。3年目の69年に14勝をマークすると70年25勝、71年17勝で2年連続最多勝を獲得。79年には防御率2.39で最優秀防御率に輝く。83年に200勝を達成。84年限りで引退。通算635試合登板、201勝196敗16セーブ、防御率3.31。沢村賞1回。ベストナイン2回。