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FOR REAL-in progress-

投手陣を支える謙虚な男。

「FOR REAL-in progress-」
2017.8.7

 優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。
 “in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。

 8月の第1週は、雨天中止から始まった。
 湿度が高く、体にまとわりつくような暑さの中での連戦は、重苦しかった。
 それでも2勝2敗1分。五分の星で1週間を乗り切った。

 ハイライトは8月3日、ドラゴンズ戦の最終回だろう。
 リードはわずかに1点。コールされたのはもちろん、山﨑康晃の名だ。

 7月最後の試合で、9回2アウト走者なしから安打を重ねられ、痛恨の逆転サヨナラ負けを喫した。
 8月最初の試合で、同じく9回2アウト走者なしまでいきながら、安打に失策がからんで2点のリードを守り切れなかった。
 今度こそ、クローザーとして、意地でもセーブをもぎ取らねばならないシチュエーションだ。

 先頭をセカンドゴロ、次打者を空振り三振に斬ってとる。ここで敵軍は代打を送り込む。セ・リーグ最多28本塁打を誇るゲレーロが、右のバッターボックスで威圧感を醸し出す。

 山﨑はひるまず投げ込んだ。カウントは2-2。最後は伝家の宝刀ツーシームでバットを空転させると、満面の笑みを浮かべた。球団が夏の一大イベントと銘打つ『YOKOHAMA STAR☆NIGHT 2017』の最終日。横浜スタジアムの夜空に、やっと白星がきらめいた。

今回の主人公は、勝利の瞬間、白球をミットに収めたキャッチャーだ。
 嶺井博希、26歳。

 この日、9回の守護神登板と同時にマスクをかぶって現れた。
 その意味を、バッテリーコーチの光山英和が明かす。

「今シーズン、三上とヤス(山﨑)は、イニングは短いけど嶺井と組んだ時はまだ失点していない。そういうデータが出ているということは監督にも伝えてあったんです。『何かあった時はこれを参考にしてください』と。ヤスは2試合連続でやられた後だったし、ここで嶺井を当てることにした。ヤスにストーリーをつくってあげるというか、その気になってくれたらと思ってね」

 山﨑にとって嶺井は、亜細亜大学の1年先輩であり、新人王を獲った2015年時の主戦捕手でもある。リベンジのため、捕手まで代えて舞台は整えられたのだ。
 ソロホームラン1本で同点に追いつかれる緊迫の場面。光山は嶺井にこう声をかけて、グラウンドに送り出した。

「お前とヤスとの相性がいいから使ってるんや。お前の思ったサインを出してこい」

 嶺井が思い返す。
「2回失敗して、3回目はないと思って自分はいきました。あいつの性格を考えても、気合いを入れてくるだろうと。マウンドに向かってくる時から顔つきが違った。何も言う必要はないと思って、ただ『普通に投げろ』とだけ伝えました」

  翌4日、対カープ3連戦の初戦で、嶺井はスタメンに名を連ねた。
  先発の石田健大とは7月19日、27日とバッテリーを組みながら、いずれも勝ちをつけてやれなかった。
  3度目こそはと臨んだ試合だったが、初回に3点を失う苦しい立ち上がり。気持ちが前面に出たのは、2回の攻撃時のことだ。

  嶺井の打球は三塁方向に転がった。野手のグラブがそれを弾いたのを見るや、全力疾走の勢いそのままに一塁ベースへ頭から滑り込んだ。


「石田はいいボールを投げてたんですけど、自分のミスで勝ちをつけられずにいた。先に3点取られて、なんとかしようって気持ちで打席に入ったらサードゴロで……。やばい!と思って、必死でした」


 チャンスは広がり、桑原将志の満塁ホームランも飛び出して一挙5得点のビッグイニングにつながった。石田も立ち直り、2回以降はスコアボードにゼロを並べた。13-3の大勝。その後の2試合を落としたことを思えば、カード頭の貴重な1勝だった。

  嶺井は左腕を称えることを忘れない。

「悪い流れかなと思ったんですけど、やっぱりエース。どんな状況でも淡々と投げてくれる。さすがだなと」

  3捕手が併用された2年前、その中でも最多の61試合に先発出場した。しかし昨シーズン、戸柱恭孝が首脳陣の評価を得て、嶺井の出番は激減する。一軍の先発マスクはゼロ。それでも腐ることは一切なかった。

「力がないのは自分でもわかってました。2年前は、出させてもらったという感じで、自分の力で掴み取った1年ではなかった」
 2015年のシーズンを振り返れば、「自分のことに精いっぱいで周りが見えていなかった」。時が経ち、経験を積み、いまはこう言える。


「自信はないですけどね、いつも。自信はないですけど、不安もあんまりないです」


  光山も、嶺井の変化を感じ取っている。
「去年、初めて一緒に練習とか試合をした時の印象は、『悪いことが起こった時、立ち直るまで時間がかかる』。ゲームの中でも引きずってるということがみんなにわかってしまうようなキャッチャーだった。今年はそれがなくなってきてますよね。悪いこともそんなに起こってないし、起こったとしても切り替えようとしてる。だったら高い技術が発揮できるかなと思って、出番が増えてる」

  もともと、嶺井に対する評価は決して低くない。光山は、こうも言った。
「キャッチャーとしてのいろんな技術のレベルは、まずまず高い。戸柱には、投手を引っ張るという目に見えない力があって試合数が伸びてるけど、一つひとつの要素をとっていくと、嶺井が上回っていることも多い。戸柱が2年連続オールスターなら、嶺井も出たっておかしくないのかなと。それぐらいのものを持っていると思います」


今シーズン、ここまで嶺井が先発出場した16試合のチーム戦績は、12勝3敗1分。勝率にして8割という高さだ。自軍投手が誰かによる起用ではなく、相手投手が左腕の時にマスクを託される難しさの中、着実に結果を残してきた。


  それでも、どこまでも控えめな嶺井は手柄を投手に譲る。
「どのピッチャーも初めてバッテリーを組んだ試合でいいピッチングをしてくれた。それをベースに、なんとか試合がつくれてるのかなと思います。ピッチャーに感謝です」

  沖縄出身だが、大の汗っかきである嶺井は暑さを嫌う。大学時代の監督の実家から送られてくる大量の米をかきこみ、厳しい夏を乗り切ろうとしている。